東電の賠償責任の範囲をどう考えるか、政府部内での検討経過の一部を朝日新聞が報道している。それを読んで、筆者はいささか驚いた。賠償総額を4兆円とし、電力会社が協力して負担する、東電自身の負担額はそのうち2兆円に設定するというものだ。
おいおいちょっと待ってくれよ、といいたくなる。第一4兆円という数字にどんな根拠があるというのだ。福島原発事故はいまだ収束しておらず、被害の全容も明らかでない。産業や雇用への影響など、今後更に膨らんでいくことも予想される。そんななかで4兆円という数字をはじき出した根拠はいったい何なのだ。
政府はこれまでに、あわよくば免責を認めさせようとする東電幹部の動きを牽制して、東電の賠償責任は無限だといってきたのではないか。それなのにかかわらず、事故が現在進行中の段階で、賠償額に上限を設けようとすることに、どんな意図が隠されているのか。
もっと解せないのは、責任の所在をめぐる議論があいまいなことだ。東電単独での賠償がむつかしいとして、東電を支援するための機構を作り、これに電力会社が資金拠出する。それに必要な資金は電力値上げによってまかなう。
つまり東電とほかの電力会社が共同して賠償責任を担い、必要な資金は料金値上げという形で国民に負担してもらう。賠償総額が4兆円くらいで済めば、国による公的負担も必要ない。これがこのスキームの基本的な考え方のようだ。
このスキームの一番問題なところは、株主や東電債を持つ機関投資家及び東電に融資する金融機関などの責任が不問に付されていることだ。これだけ巨額の損害賠償を前にして、投資家は全くリスクを負わないという仕組みだ。
たしかに東電の株価は著しく下落した。しかしそれは、東電の賠償責任を想定しての下落だ。今後その責任が軽度にすんで、株主のリスクが問われないということになれば、株価は一気に持ち直すだろう。
なんということはない、民主党政権が考えているスキームは、国民の負担の上で、東電とそれに投資する資本家の利益を守ろうとする試みに他ならない。
筆者は先に、BPの事故処理についての記事の中で、BPが地元の犠牲の上に投資家たちの利益を守ったことのしたたかさを批判したが、政府・民主党と東電とがグルになってやろうとしていることも、全くそれと同じことだ。
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