転機に立つ中国の一人っ子政策

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中国の2010年国勢調査結果の概要については、先日このブログでも取りあげたところだ。人口は相変わらず世界一多いが、人口構成の面で様々な問題点を抱えている、その原因の最たるものは一人っ子政策だという論旨だ。

人口構成の問題として最も大きなものは、いびつな男女比と急速に進む少子高齢化だ。一人っ子政策がこの傾向を加速させていることは間違いない。そこで中国の人口学者の中には、そろそろ一人っ子政策を見直すべきだとの意見が強まってきた。

北京精華大学の王豊教授に寄れば、女性の出産率は一人っ子政策が始まった1080年にはすでに2.3まで下がってきていた。1950年には5.8だったことを考えればドラスティックな下がり方だ。だからなにも一人っ子政策を実施しなくとも、出産率はその後も自然に減少したはずだ。その結果現在の1.4ほどではないにしても、人口の単純再生産に必要な2.1は確実に下回っていたはずだ。

こうしてみれば一人っ子政策は、それだけでは人口抑制の切り札になってこなかったことは明らかだ。反面深刻な副作用をもたらした。その最たるものは、金持ちと貧乏人の間の不平等が拡大したことだ。

だいたい現在の女性の出産率が1.4であるということ自体、複数の子どもを産む女性が多数存在していることを物語っている。政府もそのことは統計上の現実として認めている。このほかに、処罰を恐れて出生の届出を行っていないものが相当数いることを思えば、一人っ子政策が厳密に実施されていないことは明らかな現実だといえる。

こんなばかげた制度の下で、一方では二人目の子どもの間引きに追い込まれる貧乏な親がいるかと思えば、金持ちは罰金を払うことで何人も子どもを持つことができる、こうした不平等な事態が横行しているわけだ。

だから、もはや人口抑制の切り札とはいえない一人っ子政策は、抜本的に見直し、廃止するのがベターだ、と王豊教授は結論付ける。一人っ子政策を廃止したからといって、そのことにより女性の平均出産率が急に上昇するとは思えない。むしろ余分なタガがはずれることで、人口構成のゆがみが正されることのメリットが大きい。

こうした提言にもかかわらず、一人っ子政策を廃止しようとする機運は一向に盛り上がらない。その理由は、一人っ子政策の実施機関である官僚機構が、強い影響力を持っているからだ。

一人っ子政策の担当者たちは、全国に完璧な監視網を展開し、二人目を妊娠した女がいるとわかると、その女に堕胎を強要したり、生まれてきた子どもを間引いたりしてきた。場合によってはその子どもを取り上げて、外国人に養子という名目で売り払ったりした。

最近も、こうした官僚機構が、二人目以降の子どもを親から奪って、外国人に養子として斡旋した見返りに多額の報酬を受け取ったという記事が、世間を騒がせたものだ。

それは一人っ子政策に伴う官僚機構のビジネスの一環なのだ。こんなビジネスが横行するようでは、政策の意義も形無しと云わねばならない。

(参考)China's population The most surprising demographic crisis A new census raises questions about the future of China's one-child policy Economist


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