NHKスペシャルが「クジラと生きる」と題する番組の中で、和歌山県の捕鯨の町太地町のクジラ漁師たちが、反捕鯨団体によって嫌がらせをされ、困惑している様子を取材・報道した。筆者はこの番組を見て、いささか考えさせられるところがあった。
太地町に反捕鯨団体がやってくるようになったのは、2009年に公開されたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」の影響だ。この映画は、太地町で行われているクジラ追い込み網漁の様子を、盗撮などの手段で撮影し、その残虐性を世界中に訴えるという内容だった。しかもこの映画がアカデミー賞を受けたことも手伝って、太地町の捕鯨は一躍、世界中のクジラ好きを称する連中の間で攻撃の的となった。
毎年太地町では9月から2月までクジラ漁がおこなわれる。それに合わせて昨シーズンもアメリカやオーストラリアから反捕鯨団体が押しかけてきて、クジラを殺害するシーンを盗撮しようとしたり、実力で漁を阻止しようとしたり、漁師を挑発して彼らの激昂するところを撮影しようとした。
ザ・コーヴのための撮影が行われた時には、地元の漁師たちには反捕鯨団体の正確な目的がわからなかったために、強引な彼らのやり方に腹を立てたりしたこともあった。だがそれは、わざと腹を立てさせられていたのだと気づいて、今回はどんなことがあっても、じっと我慢しようと、耐え続けた。
そんな彼らに、押しかけてきた反捕鯨団体の連中は、口ぎたなく罵りかけ、あわよくば挑発して怒らせようとまでする。中には、「みじめな奴らだ」、「負け犬め」、「殺し屋」などと毒づくものもいる。人間の尊厳を顧みない、非人道的な行為というほかはない。
こうした連中を組織する反捕鯨団体の言い分は、クジラは頭の良い動物で人間の友達だ、そんなかわいい動物を殺すのは許せないという理屈だ。許せない行為を行う連中は、どんなひどい目にも合う価値がある、というわけだ。
彼らの活動を財政的に支えているのは、クジラ愛好家たちからの寄付だという。その寄付金が、太地町のような漁師町で嫌がらせを行ったり、南極海で捕鯨活動をする船へ大規模な妨害活動をするための活動資金となっている。要するに反捕鯨のための国際的なシンジケートが形成され、シー・シェパードのような連中が、それを舞台に暴力的なビジネスを展開しているというわけだろう。
映像を見た限りでは、シー・シェパードを中核とするプロの集団が、弱い立場の漁師たちをいじめているといった空気が伝わってくる。そのいじめが生半可なものでないことは、漁師たちの中に廃業を考えるものが出てきたり、漁師の子供たちが悲しい思いをしていることからわかる。
こうした事態に対して、国や自治体は何もしないでいてよいのか。そんな疑問が湧きあがってくる。クジラ漁は、日本の法律の下では違法な行為でもなんでもない、太地町の漁師たちにとっては生活の糧だ。それが暴力的な方法によって脅かされているのだから、国や自治体には彼らを守ってやる責任があるのではないか。
クジラをとることの道義的な問題と、クジラをとることを暴力的に妨害することとの間には、何の必然的なつながりもない。暴力は暴力だ。その暴力を受けて苦しんでいる国民がいるのなら、国には暴力を振るう連中を取り締まる責任があるのではないか。
筆者は、この番組の中で展開されていたあまりにも理不尽な暴力を見て、このように考えた次第だった。
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