NHKスペシャル「ホット・スポット:動物たちの最後の楽園」第5回の舞台は東アフリカの大地溝帯沿いに広がる古代湖といわれる湖沼群だ。題して「東アフリカ:神秘の古代湖―怪魚たちの大進化」
ヴィクトリア湖、タンガニーカ湖、マラウィ湖を中心とするこの湖沼群は、大地溝帯と呼ばれる巨大な台地の割れ目に水がたまってできたものだ。古代湖の言葉どおり数百万年前に形成された古い湖だ。
普通の湖はそんなに長くは存在しない。せいぜい1万年くらいだ。どんなに大きな湖でも、時間の経過とともに堆積物がたまって最後には平らな陸地になってしまうからだ。それなのに、東アフリカの湖沼群が数百万年もの間存在してきたわけは、1000万年前に始まったという大地の陥没が今でも続いていることにある。
これらの湖沼群にはユニークな生き物が独特の進化を遂げてきた。そのチャンピオンといえるものはシクリッドだ。口の中で子育てをすることで知られているこの魚は、合計1800種にも及ぶが、そのほとんどはこの数百万年の間に進化の枝分かれをしてきた。
たとえばマラウィ湖に生息するシクリッドをとりあげると、現在800種類が確認されているが、それらはすべてたった一種類のシクリッドから分かれたことが分かっている。わずか数百年の間に、これだけの進化が進むことは、普通の状態ではありえないことだ。人間がチンパンジーとの共通の祖先から枝分かれしたのが7百万年前のことからすれば、驚異的な進化の早さだといわねばならない。
古代湖の中では生存競争が厳しい。それが進化を促した最大の要因らしい。大地が陥没してできた湖であるため、魚の生息できる環境が岸辺沿いのわずかな部分に限られていることがその原因だ。
小さなシクリッドは大きなシクリッドに食われる。その大きなシクリッドも、自分の子どもを小さなシクリッドに狙われる。といった具合で、どんな種類のシクリッドでも、常に食われる危険にさらされている。その危険が子どもを口の中で育てるという、めずらしい習性を育んできた。
古代湖にはシクリッドのほかにナマズも住んでいる。そのナマズの中に、奇妙な行動をするナマズがいる。シクリッドの口の中に自分の卵を生んで、シクリッドに育てさせるのだ。カッコウの託卵と全く同じことをやっているわけだ。ナマズの卵はシクリッドよりも早く孵化するので、先に生まれたナマズの子がシクリッドの子を食いつくし、口の中に居残るのだ。それを親のシクリッドは自分の子と思って大事に育てる。
こうした古代湖に独特の生態系も、最近乱されるようになった。とりわけヴィクトリア湖においては、50年前に意図的に放たれたナイルパンチが大繁殖し、在来種のシクリッドを食い尽くしているのだ。
これに人間による湖水の汚染が重なり、古代湖は急速な環境悪化に苦しんでいる。この分だと遠からず多彩な生き物が存在できない死の湖になる可能性さえあるという。
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