マードック・スキャンダル(Murdoch Scandal)

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イギリスのタブロイド紙ザ・ニューズ・オヴ・ザ・ワールド(The News of the World)の盗聴事件に端を発したスキャンダルは、160年の歴史を持つこの新聞の廃刊と、編集長レベッカ。ブルックス女史の逮捕に続き、オーナーであるルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏が英議会の公聴会に召還されるという事態に発展した。

事件が公になった当初は、特ダネ競争が激化した挙句の新聞記者の暴走くらいに捕らえられていたが、解明が進むにつれて、盗聴のためのデータ収集をめぐるメディアと警察との不明朗な結びつきや、キャメロン政権とマードック氏の深い関係などが明らかとなり、次第に政治的な色彩を帯びるようになった。

しかも、最初はイギリス国内の盗聴活動に限定されていたのが、9.11事件の被害者にも盗聴活動が行われていたことが明らかになり、FBIも操作に乗り出すなど、国際的なスキャンダルの様相を呈している。

ルバート・マードックはニューズ・コーポレーション(News Corporation)の会長として、英米のメディア界に絶大な影響力を持っている人物だ。イギリスではザ・ニューズ・オヴ・ザ・ワールドのほかザ・タイムズなどの有力紙を支配し、アメリカではウォール・ストリート・ジャーナルなどの有力紙のほか、四大ネットワークのひとつFOXを支配している。

このように巨大な影響力をもつメディア王が、いまや裁きの表舞台に出てきたとあっては、英米のメディアが夢中になるのも無理はない。

マードック・スキャンダル(Murdoch Scandal)は様々な方面に甚大な影響を及ぼしている。

まずイギリス国内では、マードック氏と深いつながりがあったキャメロン首相への追求となって現れている。マードック氏はキャメロン首相が就任後最初に招いた客だったといわれるくらい親密な間柄だったから、そのスキャンダルが首相に及ぶのもある程度自然の勢いだといえる。

イギリスではガーディアン紙(The Guardian)がこの問題を最初に取り上げたという自負から、事件の経緯や背景について詳しい報道を続けている。アメリカでは、ニュー・ヨーク・タイムズ(New York Times)の厳しい追求にウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)が苦しい応戦を続けているといった具合だ。面白いことに、FOXの放送免許が取り消される可能性まで指摘されるようになった。

一盗聴事件がなぜここまで国際的でかつ広範な影響をもたらしたのか。そこに政治的な背景を指摘する意見も多い。つまりマードックという特異な人間によるメディア支配が世界の政治情勢に重要な影響を及ぼし続けてきたことへの強い反発があり、それが今回の事件をきっかけに彼を追い落とそうとする人々を勢いづかせているのではないか、そんなうがった見方もある。

冷泉彰彦氏などは、マードック氏の妻のウェンディ・デン(Wendi Deng)女史の存在を取り上げている。(マードック帝国は崩壊するか<日本語版ニューズウィーク>)

デン女史はかつて香港スターテレビの幹部であったが、その当時から反米、親中国的な傾向が強かった。その女史がいまや80歳の高齢になったマードック氏の後継者になったわけだから、氏の死後、氏の率いてきた巨大メディア集団がどのような姿勢を強めるか、非常に心配だ、そんな懸念があって、今のうちからマードックを叩いておこうという誘惑を強めているかもしれないというのだ。

なおデン女史は、マードック氏が英議会の公聴会に呼ばれたとき、氏の後ろに控えていて、氏が暴漢によってパイを投げつけられたさいには、すかさずその暴漢にパンチを食らわせたということである。(上の写真は傍観に襲われるマードック氏)





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このページは、が2011年7月22日 20:09に書いたブログ記事です。

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