東京スカイツリーが634メートルまで立ち上がったのは3月18日のこと、その一週間前の3月11日にはあの大地震が起きた。その日は、スカイツリーの建設にとって最大の山場、建築家の間でクリティカル・ポイントと呼ばれるところにあたっていた。何か大きな不具合がここで生じれば、スタート台に引き返さざるを得なくなるほど、重大な局面だった。その重大な局面を現場の技術者たちは何とか乗り切って、3月18日の立ち上げの成功につなげた。その戦いぶりを、NHKスペシャルが追跡していた。題して「東京スカイツリー:世界最難関への挑戦」
東京スカイツリーは、構造物としては世界最高の高さである。しかも地震が多発する国にそびえている。こんな条件の下で立ち上げるためには、高度で正確な技術が求められる。ちょっとした狂いも許されない。ところが500メートルを超えるような高さでは、雨雲、強風、落雷といった厳しい自然条件が待ち構えている。こうした過酷な条件の下で、いかに鉄塔を立ち上げていくか、それは技術者たちにとって未知の世界との戦いとなった。
高度の壁を乗り越えるために技術者たちがとった方法は、構造物を二重構造にすることだった。500メートルくらいまでは、自然条件がそう深刻化しないので従来の工法を取る、それは膨大な数の鉄骨を溶接しながらつないでいくというものだ。500メートルを越える部分は、あらかじめ地上で作り上げ、それをリフトアップすることで本体につなぐ。こうすれば強風などの自然条件を気にしなくても立ち上げることができると考えたからだ。
従来工法による土台の部分は塔体と呼ばれる。その上につながるアンテナ塔の部分はゲイン塔と呼ぶのだそうだ。このゲイン塔は地上で溶接しながら組み立てられ、心柱のための空間を通じてリフトアップ(ジャッキアップ)され、495メートルの高さで、基底部分が塔体の先端に固定される。だがこのリフトアップによる接合が、そう簡単な作業ではない。小数点以下3桁のレベルでの正確さを求められるのだ。
地上から徐々にリフトアップされるゲイン塔が無事持ち上げられるためには、塔の本体は直立していなければならぬし、ゲイン塔自体も安定した姿勢を保たねばならない。ところが本体は太陽熱によって傾いたりするし、また思いがけないことに、ゲイン塔が回転するといった事態まで出現した。
こうした思いがけない事態に直面しながら、試行錯誤を繰り返し、いざ最終的なリフトアップというときに、あの地震に見舞われたわけなのである。
495メートルの空中にいた工事関係者たちは、激しい揺れに見舞われて事態の深刻さを直感した。塔体は4-6メートルの幅で振幅した。人間がまともに立っていられる状態ではなかった。そんな状態の中でも、塔には何らの損傷も生じなかった。皮肉なことに、この巨大地震が完成間近だったこの塔の安全性を証明してくれた形になったのだった。
工事は余震を考慮して三日間中断したが、再開されるやすみやかに進み、地震から一週間後には立ち上げが成功した。その成功の現場にいた関係者の一人が、「嬉しいには違いないが、手放しでは喜べない」といっていた。それまでに味わった苦痛があまりにも大きかったので、素直に喜べないというのだ。でも、困難な事業をやり遂げたことは間違いないのだから、素直に自信を持っても良いところだ。是非万歳三唱して、苦悩を吹き飛ばしてもらいたい。
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