犬肉料理と白頭山伝説:吉田康彦氏の北朝鮮案内

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北朝鮮ツウで知られる吉田康彦氏の著作「北朝鮮を見る、聞く、歩く」(平凡社刊)を読んだ。氏はかつて北朝鮮シンパを自認し、北朝鮮による日本人拉致問題は、でっち上げか何かの間違いだなどと云って世間の顰蹙を買ったことがあったようだが、この本の中ではそうしたいきさつを自己批判して、より客観的な立場から北朝鮮の現状について案内したい旨のことをといっている。

北朝鮮についての情報が乏しい中で、貴重な業績といってよい。筆者も北朝鮮について誤ったイメージを抱いていることが多いと思うので、こうした生の情報に数多く接する機会があればと、かねがね思っていたところだ。

この本の中で筆者がとりわけ感銘を受けたのは、北朝鮮の犬肉料理好きと、白頭山伝説についてだ。

氏によれば、犬肉はかつて朝鮮半島全体から旧満州に一帯にかけて広く食われていたようだ。最近は韓国では食われなくなったが、北朝鮮では依然好んで食われているという。

北朝鮮では犬肉を甘肉といい、犬肉料理の専門店を甘肉食堂という。平壌には客席数600席の大規模甘肉食堂「平壌甘肉店」をはじめ、数多くの甘肉食堂が看板をあげているという。

日本人が夏の熱い時期にウナギを食うように、北朝鮮の人も、三伏節といわれる夏の熱い時期に甘肉を食う。補身湯という鍋料理が主体で、肉がトロトロになるまで煮込む。これを食うと、「五臓を穏やかにして血液を調整、腸を頑丈にし、骨髄を補い、腰と膝を温め、陽の気を刺激して気力を充実させる」のだそうだ。

白頭山は中朝国境にまたがる山で、南北を通じて朝鮮民族にとって霊山とされるものだ。というのもこの山は、朝鮮民族の祖とされる檀君神話の舞台となっている山だからだ。

この神話を自分の権力の基盤として利用しているのが、金日成、金正日親子だ。金日成は白頭山に生まれたが、それは檀君が朝鮮民族を解放するために金日成として生まれ変わったのだ、こういう説が広く権力によって流布されている。また金正日も白頭山で生まれたということになっている。彼ら親子は檀君の直接の子孫として、神話的な背景をまとっているわけである。

実際にはこの説が誤りなことは、世界中が知っている。金日成が生まれたのは、ロシアのハバロフスク近郊の町ボロシーロフ(現ウスリースク)で、金日成は青年時代、同地に駐留していたソ連軍の朝鮮人部隊に組み込まれていた。彼が大戦後北朝鮮にやってきたのも、ソ連軍の先方としてであり、ソ連の後押しを全面的に受けて権力基盤を築いた、というのが現在の定説である、こう氏はいうのだ。

面白いことに、白頭山は満州族の清国にとっても聖地となっている。このため、この山を巡っては、これまでに中朝両国の間で綱引きが行われてきた歴史があるのだそうだ。


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このページは、が2011年8月 1日 20:15に書いたブログ記事です。

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