広島の原爆体験を描いた漫画「はだしのゲン」の作者中沢啓治さんが、平和祈念式典にはじめて参加したと聞いて、筆者はちょっぴり驚いた。中沢さんは子供の時に広島で被爆し、その時のことを漫画という形で広く世界に訴えてきた人だ。筆者も中沢さんの漫画を通して、被曝の悲惨な実態の一端を知ることができた。だから中沢さんは当然、毎年行われる記念式典にも何らかのかたちでかかわり合ってきたのだろうと、勝手に思い込んでいたのだった。
中沢さんはこれまで記念式典に参加しなかった理由を、白いハトを飛ばせるようなパフォーマンスで、原爆の実態を訴えることなどできるはずがないと、批判的に考えてきたからだという。
しかし被爆者のほとんどが高齢化する中で、被爆体験が次第に薄れていく。そんな中で今年の式典では、生き残った人々の体験が語られるなど、今までとは異なった催しが行われる。それに今年は福島の原発事故が起こり、日本人として原子力をどう考えるか、するどく問われてもいる。こんな情勢を謙虚に受け止めて、今年はついに参列する気になったのだそうだ。
式典では、菅総理大臣も出席し、今回の福島原発事故に触れたうえで、「原発への依存度を引き下げ、『原発に依存しない社会』を目指す」との持論を表明した。
また松井広島市長は、平和宣言の中で初めて被爆者の手記を引用し、被爆者の苦しみを訴えるとともに、核保有国に対して核兵器の廃絶に向けた取り組みを進めるよう求めた。また、福島原発事故については「原子力発電に対する国民の信頼を根底から崩した」と指摘し、国に「国民の理解と信頼を得られるよう早急にエネルギー政策を見直し、具体的な対応策を講じていくべきだ」と求めた。
日本人にとって核問題とはどういう意味を持ち、日本人はそれとどのようにかかわっていくべきなのか、そうした根本的といえる事柄が、今年は改めて問われる年になったようだ。(写真は読売新聞から)
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