野田財務大臣が民主党の新しい総裁に選出された。当然のことながら、菅総理大臣に次ぐ日本の新しい総理大臣の誕生である。だがその誕生を素直に喜ぶ人は、野田さんの仲間を除けば、ほとんどいないのではないか。むしろ彼の政治的手腕に疑問を抱き、日本の将来に不安を覚える人のほうが圧倒的に多いだろう。
無理もない。野田さんは財務大臣として一定の政治的経験をつんできたとはいえ、国民に向かって直接に話しかけたということは殆どなかった。だから大多数の国民も、野田さんがどんな政治的信念を持っているのか、また日本の将来に向かってどんな政策を実施しようとしているのか、よく分からなかったに違いない。世論調査では、野田さんの支持率は9パーセントで、あの泣虫騒ぎで評判を落とした海江田さんよりも低かったのだ。
民主党が自民党を倒して政権をとってから、まだ2年にならない。それなのに野田さんは三人目の総裁だ。総裁が変わる度に民主党の政策はぶれ、先の選挙で民主党を勝利に導いた最大の要因であるはずのマニフェストの精神も骨抜きにされてきた。野田さんに至っては、自民党との大連立だの、震災復興を質に取った大規模な増税だの、先の選挙では一言も言っていなかったことを、民主党の政策として公然と打ち出している。それが果たして現在の国民の意思を踏まえたものなのか、検証がなされている様子もない。
今回の民主党の総裁選びは、国民や一般党員の意思とはかかわりのないところで行われた、と多くの人が感じているに違いない。5人もの人が立候補したが、誰の政策が誰の政策とどうちがうのか、誰もが理解できるような討論が行われなかった。政権を目指す人たちは、政策で自分の政治的正統性を主張するのではなく、数の力を借りて相手を倒すことに熱中した。そのさまを見た国民は、そこに醜い権力争いしか見なかったのでないか。
権力争いは自民党の専売特許かと思っていたら、どっこい民主党も自民党に劣らず権力闘争が好きだったわけだ。その権力闘争が今回は親小沢対反小沢という形で現れた。野田さんの勝利は、小沢さんの復権につながりかねない海江田さんの勝利を嫌った連中が結束したことの結果だ。
権力争いもここまで来ると、醜いという以上に、危険な性格を帯びてくる。政治家たちには、政策の実行とそのことを通じての国民の幸福の向上ということより、自分たちの権力の維持拡大そのものが、最大の政治的な目的となる。その目的のためには、たとえば震災復興であるとか、原発危機の回避であるとか、国民にとって切実な問題が、権力争いの道具に使われるようにまでなる。そうなっては本末転倒もいいところだ。
自民党、民主党を問わず、権力闘争に全エネルギーを注ぎ、国民のほうに目を向けようとしないような政党に、国民は何も期待できない。それでは民主党を責任政党ということはできない。(写真は民主党の権力闘争を戦った人たち:FNNの映像から)
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