9.11から10年:世界はどう変わったか

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あの9.11から10年がたった。この10年はアメリカにとって、また世界にとってどんな10年だったか。こんな問いかけが、深く、広く、提起されている。

このテロ事件に引き続いて起こった事態を一言で総括すれば、それはテロとの戦いと称される大規模な戦争の継続だろう。ブッシュ政権は、テロが起きた翌月には、実行犯をかくまっているとの理由でアフガニスタンのタリバン政権を攻撃し、それをあっさりと崩壊させた。

引き続いてイラクのフセイン政権が大量破壊兵器を開発して、アメリカへの攻撃を用意しているという話をでっちあげて、世界中の同盟国を巻き込んでイラクに大規模な戦争を仕掛けた。その結果フセイン本人は裁かれて処刑されたが、イラク国内はいまだに大混乱から立ち直れていない。

ブッシュは軍事的には相手を圧倒できたが、その結果圧倒された国々に平和が訪れたかと云うと、そう簡単ではないということだ。そのことはブッシュ自身が一番よくわかっていていいはずだ。

この二つの戦争に代表されるようなテロとの戦いは、西欧的な価値観とイスラム世界との正面衝突という形を取った。アメリカは、いまや普遍的な価値を幅広く受け入れる民主的で寛容な世界ではなくなって、自分の狭い価値観を誰彼かまわず押し付けて、いうことを聞かないものには暴力を振るう、情けない体制に堕落しつつある。こんな評価がささやかれるのは、アメリカにとっては不幸なことに違いあるまい。

こういう見方に立てば、9.11以降の10年はアメリカにとって、「失われた10年」ということになる。

ある意味でそれは、ビン・ラディンが描いたシナリオだったのではないか。アメリカをアラブとの戦争に引っ張り出して、正面から向き合わせるということは、アメリカの正義なるものが、アラブの大義の前で相対化されることを意味する。

そうすることでアラブの大義を、アメリカの正義の対立軸として、世界中に宣伝する。これがビン・ラディンの本当の目的だったとすれば、アメリカはまんまと、その目的の成就に向かって一役買わされたと言えなくもない。

アメリカ人を恐怖に陥れ、報復に向かって駆り立てる上で、9・11テロは理想的な効果を果たしたといえよう。世界貿易センターのツインビルを標的に演出されたテロ劇は、この効果を劇的に高めた。一機目の飛行機をツインタワーの片割れに突入させ、世界中のメディアがその様子を実況中継で放送する。

突撃された建物は分厚い黒雲を噴き上げて炎上している、建物の中には大勢の人が取り残されているに違いない。

こうしてテレビにくぎ付けになっている人の不安な思いをあざ笑うかのように、二機目の飛行機がもう一つのビルに突入する。まさに映画を見ているようだ。

そのうち二つのビルはほとんど同時に崩落し、そこに超高層ビルがたっていたなんて信じられないくらい完璧に、この世から消滅した。現場でその様子を目撃していた人々も、テレビで見ていた人々も、みな一斉に恐怖の声をあげたに違いない。この恐怖を引き取る形で、ブッシュとチェイニーが復讐の戦争を始めるわけだ。

ブッシュがテロの直後に間髪を入れず戦争を始めたとき、筆者などはそこにアメリカ軍国主義の生理のようなものを感じた。強大な軍事力と云うものは、伝家の宝刀であり続けるわけにはいかないようになっている。パワーが一定程度蓄積されると、それを吐き出したくなるようにできている。それが生理的な事情と云うものだ。だからこの戦争は、勢力がたまりすぎてうずうずしていたアメリカの軍事力にとって、それを爆発させる格好の口実になったはずなのだ。

戦争というものは基本的には破壊行為だ。アメリカの場合それは、他国の破壊という形をとるが、自分の国も無傷ではいられない。いろいろなところで、返り血を浴びるような事態も起きる。

今日のアメリカの財政危機と経済的停滞とは、この失われた10年の置き土産のようなものともいえるのだ。

アメリカは10年間の戦争を支障なく続けるために膨大な戦費を費やした。その戦費がアメリカ政府の財政を圧迫して、政策的な弾力性を奪っている。いまオバマ政権が苦労しているのは、この戦費の返済が制約となって、あらたな債務が調達できないことだ。

そんな構造を作り上げたそもそもの責任者はブッシュとチェイニーの共和党政権だ。共和党は自分がばらまいた種のおかげで国が傾きかけているというのに、その責任を反省せずに、オバマには、やれ金持ち減税だとか、やれ小さな政府だとか、馬鹿げた要求ばかり突きつけている。

そのチェイニーが副大統領時代の回顧録を出したというので話題を呼んだ。ただしあまりかんばしいものではないようだ。自我礼賛で埋まったこの回顧録は、かつての味方だったパウエル国防長官やライス国務長官も気分を害するほど、ろくでもない自己賛歌といった代物らしい。(写真は恐怖の表情でツインタワーの崩落現場を見る人々)





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このページは、が2011年9月11日 19:08に書いたブログ記事です。

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