エズラ・パウンドの連作詩集「ヒュー・セルウィン・モーバリー(Hugh Selwyn Mauberley)」

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エズラ・パウンドの詩集「ヒュー・セルウィン・モーバリー(Hugh Selwyn Mauberley)」から「自らの墓のためのオード(Ode pour l'election de son sepulchre)」(壺齋散人訳)

  三年もの間 時代と折り合いがあわず
  あいつは死んだ芸術を蘇らせようとした
  それは旧い意味合いでの荘重な詩だったが
  どうもスタートから間違っていたようだ

  だが あいつが半ば野蛮な国に 時期はずれに
  生まれたことを考えれば そうともいえぬ
  あいつは断固として どんぐりからユリの花を咲かせようとしたんだ
  カパネウスだよ 疑似餌につられたマスのようなもんだ

  「我らはトロイアでの苦しみを知る」
  この言葉が耳に響きわたり
  岩陰に出来た波の通い路に
  あいつは身を潜めることにしたんだ あの年

  あいつのペネローペは 本当はフローベールだったんだ
  あいつは頑丈な岩陰で釣り糸を垂れ
  日時計に書かれたことわざなんかより
  キルケの髪の毛の優雅さが気になったんだ

  お祭りの時節だったにもかかわらず
  あいつはわずか30歳の若さで
  人々の記憶から忘れ去られ
  文学史に何の痕跡も残さなかった
  

パウンドの連作詩集「ヒュー・セルウィン・モーバリー」は1920年の作品だ。この詩集を通じて、パウンドはそれまでの自分の詩業に一つの区切りをつけようとした。冒頭の詩に、墓碑銘をイメージさせたのは、それまでの自分と決別するのだという意思の表れだろう。

詩集は13篇の相互に関連しあう詩からなる。最後の詩は、反歌と題されている。


ODE POUR L'ELECTION DE SON SEPULCHRE

  FOR three years, out of key with his time,
  He strove to resuscitate the dead art
  Of poetry; to maintain "the sublime"
  In the old sense. Wrong from the start--

  No hardly, but, seeing he had been born
  In a half savage country, out of date;
  Bent resolutely on wringing lilies from the acorn;
  Capaneus; trout for factitious bait;

  Ιδμεν γαρ τοι παυθ οσ ενι Τροιη
  Caught in the unstopped ear;
  Giving the rocks small lee-way
  The chopped seas held him, therefore, that year.

  His true Penelope was Flaubert,
  He fished by obstinate isles;
  Observed the elegance of Circe's hair
  Rather than the mottoes on sun-dials.

  Unaffected by "the march of events,"
  He passed from men's memory in _l'an trentiesme
  De son eage_; the case presents
  No adjunct to the Muses' diadem.


関連サイト:英詩と英文学エズラ・パウンド





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