今年の6月に広州で起きた暴動騒ぎは、今の中国社会が抱えている格差問題をあぶりだした。急速な経済成長の陰で、その恩恵から零れ落ちるばかりか、差別的な待遇にあえいでいる農民工と呼ばれる人たちの存在が、俄然クローズアップされたのである。
農民工とは農村部から都市部に短期的な出稼ぎに出てきている人をさしていう言葉だ。農村出身の労働者と云う意味の呼称だが、そこには差別的なニュアンスが込められているともいえる。
かつての日本もそうだったが、一国の経済が近代化し、急速に拡大する過程では、農村部から都市への巨大な人口移動が起きるものだ。日本ではその大部分は恒久的な人口移動、ありていに言えば農村出身者が都市に移動して定住するという過程をとった。
ところが今の中国では、農村の出身者は都市に定住することができない。都市で出稼ぎ労働に従事することはできるが、定住することにはハードルが高いので、そういう人々は一定の時間がたつと再び農村に還流し、そこで農業を営むように、制度的にビルトインされているのだ。
こうしたシステムを作り上げているのは、中国特有の戸籍制度と雇用制度のあり方だ。
中国共産党は、計画経済をスムーズに運営するという目的から、国民の移住と職業選択の自由を制限する戸籍登記条例を1958年に制定した。この条例が今でも生きているために、農村部の人たちは都市に出稼ぎに出ても、都市への定住が許されない。
こうした人たちは農村に戸籍を持ちながら都市で出稼ぎをするという身分形態にとじ込められてしまうわけだ。そんな人たちの数は2010年には1億5300万人に上ったという。
これらの農民工は現住地の戸籍を持っていないために、就業、賃金、社会保障等の分野で制度的な差別を受ける。
能力があっても農民工は参入できない職種がある、都市の戸籍所有者が享受している保障制度(給与の23パーセント分に相当する医療・年金・失業保険等のための使用者負担金など)が適用されない、また農民工では住宅が購入できないとか学校教育の場でもさまざまな差別が存在するといった具合に、階層格差の網の目が幾重にも張り巡らされている。
こうした制度的な差別が彼ら農民工の怨念の対象となり、強い怒りの源となっているわけだ。(写真は今年6月の広州暴動連行される農民工:YOUTUBE)
関連サイト:中国を語る
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