帰宅困難と群衆行動

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3月11日の大地震直後、首都圏はすべての鉄道がストップし、1400万人にのぼる膨大な人々が帰宅困難の情況に陥った。かくいう筆者も横浜で地震に遭遇した後、千葉県船橋市の自宅に帰るまでに多大の困難を味わった一人だ。折角乗れたタクシーが道路渋滞に巻き込まれて全然前に進まない。結局その日のうちに家にはたどり着けず、二日がかりでやっと帰宅できた。

あの日の筆者はまだ幸いなほうだったかもしれない。中には40キロも離れた自宅まで歩き続けたという人もあったのだから。また、主要なターミナルは集まった群集で身動きもできないほど混雑し、幹線道路は帰宅を急ぐ人々であふれた。その超過密な状態の中では、どんな惨事が起こってもおかしくはなかった。実際、道路の混雑に巻き込まれて、救急車も消防車もまともに動けない情況があちこちで生じていたのだ。

地震による災害予測の中には、帰宅困難者による道路渋滞などの混雑現象の影響は盛り込まれていないという。つまり想定外なのだ。しかし、膨大な数の人々がいっせいに同一行動をしたら、その混雑から悲惨な事態が生じる恐れは十分にある。そのことを今回の地震による帰宅困難情況が教えてくれた。

NHKの検証番組「帰宅困難」によると、人々を帰宅に駆り立てたのは、一種の同調心理とそれをもたらした情報不足だったようだ。携帯電話がパンクしてつながらなくなったために、人々は家族のことが心配になっていてもたってもいられなくなった。そして鉄道の駅へと集中し、そこで異常な混雑に巻き込まれた。あたかもラッシュ時の電車の中のような混雑情況の中で、将棋倒しのような事態が生じてもおかしくない状態があちこちで生じた。

電車をあきらめた人々は家路を目指して幹線道路を埋め、そこからあふれた人々が車道まではみ出す。車道も車で渋滞し、消防車が前へ進めない。その結果火災の初期消火に失敗する事態も生じたに違いない。こんなわけで、1400万人が無闇に帰宅にこだわったために、いままで想定していなかった異常な事態が出現したわけだ。

こうした異常事態の場合には帰宅にこだわらず、その場に残ることが必要だ。そうNHKは主張する。日本国政府もまた同じ見解だという。

だがそのためには、人々が帰宅せずにその場に残るという選択を支える条件が必要だ。その条件の中でもっともポイントになるのは、家族の安否などに関する情報網の確保だろう。

番組は最後に浦安ディズニーランドのとった処置を紹介していた。その日ディズニーランドには数万の客がいたが、園では彼らに向かって、無理に帰るよりもここにとどまったほうが安全だということを繰り返し呼びかけた。その結果2万人の人々が翌朝まで園内にとどまった。園では、そのために万全の備えをしていたことはいうまでもない。一私企業としては、なかなかできることではない。それをやってのけたのは、立派と云うほかはない。

ディズニーランドのケースは、今後の対策にとってよいモデルになると思う。





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このページは、が2011年10月11日 20:09に書いたブログ記事です。

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