ニューヨークの金融街で始まった「ウオール・ストリートを占拠せよ(Occupy Wall Street)」の運動は、その後全米に広がり、更に世界中にも広がる勢いだ。勢いが拡大するうちに、運動の目標も「反格差」に集約されつつあるようだ。
その運動を思想面で支えている本があるという。昨年の10月に出版された「怒れ(Indignez-vous)」という本だ。
書いたのは今年93歳になるステファヌ・エッセルさん。ドイツで生まれ、フランスでレジスタンス運動に身を投じたというエッセルさんは、かつて自分が怒ったように、今日の若者も怒れと勧めている。今の社会はあまりにも不公正で、若者が怒らなければ、矯正されないと主張したものだ。
最初は自然発生的に始まったアメリカでの運動が、エッセルさんの呼びかけに答えて、次第に明確な意思を示し始め、それが国境を越えて世界中に広がり始めたということだろうか。。
実はアメリカの運動よりも前に、アラブ諸国での反体制運動がおこり、その前にはイギリス、フランス、イタリアい云った国々で若者による反乱があった。どれもみな、深刻な社会問題に対して、責任を以て解決しようとしない政治家や企業家に対して、「ノー」をぶつけるものだった。
世界中の若者は、いま怒りの感情を爆発せざるを得ないような状況に追い込まれている。
ところが日本では、そんな動きが対岸の火事のように受け取られている。若者はもとより、どの階層の人々も、声をあげて「ノー」という動きはない。そんな状況に甘んじて、政治家たちにも責任感が感じられない。東日本大震災と、それと並行して起きている深刻な原発事故にたいして、政治家たちはそれを国難と受け止めて、全力をあげて問題解決に努めようとの気概が感じられない。政党が権力闘争に血眼をあげているかと思えば、総理大臣はピントはずれな言動に終始している。
だからといって、これは日本の社会経済情勢が、それなりにうまくいっているというしるしではない。平穏な外観の内側には深刻な事態が進行しているのだ。日本だっていつか、若者が爆発しないとも限らない。日本の若者も本当は怒り心頭のはずだ。
とにかく今の日本は、若者にとって住みにくい社会になってしまっている。それ以上に希望のない国になってしまったというのが正確だろう。
経済システムの崩壊と並んで労働市場の破壊も進み、今や日本の若者の大部分が非正規雇用に甘んじ、明日に希望が持てない状況に追い詰められている。結婚して自分の家庭を持つどころか、自分自身の命をどうつなぐかに汲々としているような若者が増えている。
それなのに、若者たちには、これから老いていく世代を扶養しなければならないという重圧ばかりがのしかかってくる。
先日公表された厚生省の年金プランなどは、日本の若者をとことん搾取して、今のこの国を支配している連中の既得権益を守ろうとの、露骨な意思を示したものだ。
今後の世代の年金受給開始年齢を70歳まで引き上げ、他方では雇用の確保は保障されないというプランだ。これはプランなどと云うもの代物ではない、若者を奴隷境遇に追いやり、彼らの犠牲の上で、老人たちの既得権益を守ろうとする意思を証明した、露骨な差別である。
日本の若者たちはそこまでコケにされて、果たしていつまで黙りつづけていることができようか。
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