世界経済の混乱を背景に史上空前といわれる円高が進んでいる。このままでは、輸出型産業を中心とする日本経済は深刻な打撃を蒙り、ひいては経済成長率もマイナスとなる恐れがある、こんな不安が蔓延しつつある。
だが大局的に考えれば、円高と云う現象は日本経済に対する信頼があるからこそ生まれる現象だ。その信頼感はどこから生まれるのか。
日本はGDPの倍に達する政府債務を抱え、借金と云う点ではギリシャよりひどい状況にある。それなのに信用不安がおこらない。これには様々な要因が絡んでいるが、そのひとつとして挙げられるのが、日本が約250兆円(2010年末)にものぼる対外純債権を持つ安定した債権国であるという事情だ。
こうした対外資産は、対外投資の結果もたらされたものだ。この数字が巨額であるということは、日本が世界有数の対外投資国になりつつあることを物語っている・
対外収支には、貿易収支、サービス収支などとならんで所得収支がふくまれる。所得収支とは、対外投資の結果を反映した数字だ。これは一国の経済指標であるGDPには盛り込まれないので、表面には出てこないのだが、国の経済活動を読み取るにあたっては重要な指標なのである。
日本は長らく貿易立国であると自分自身で思い続けてきたが、実は貿易立国と云うより投資立国になりつつあるのだ。
2004年の時点で、所得収支の黒字(9.6兆円)が貿易・サービス収支の黒字(9.5兆円)を逆転して以来、所得収支の黒字幅が次第に拡大し、2010年度には貿易・サービス収支の黒字5.2兆円に対して所得収支の黒字は12.0兆と、2倍以上になった。こうした積み重ねの結果が巨額の対外純債権をもたらしたわけなのだ。
所得収支を含めた一国の経済指標としてGNI(国民総所得)があるが、当面の日本はGNIとGDPとがますます乖離していくと予想される。
だがGNIの伸びがそのまま、日本国内の雇用増や賃上げにつながっているかといえば、そうではない。これは海外からの稼ぎが国内に十分活用されていないことを物語っている。
直接海外投資の増大を国の発展と結びつけるためには、もうひとひねりの工夫が必要になるというわけだろう。
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