赤壁譜二編を書いたと同じころ、蘇軾は念奴嬌という詞を書いている。赤壁の戦いの立役者周瑜を歌ったものだ。
大江東去 大江東に去り
浪淘盡 浪は淘盡す
千古風流人物 千古風流の人物を
故壘西邊 故壘の西邊
人道是 人は道ふ是れ
三國周郞赤壁 三國周郞の赤壁なりと
亂石穿空 亂石は空を穿ち
驚濤裂岸 驚濤は岸を裂き
卷起千堆雪 卷き起こす千堆の雪
江山如畫 江山畫くが如く
一時多少豪傑 一時多少の豪傑ぞ
長江は東へ向かって流れ、波が千古風流の人物を洗い流してきた、古い砦の西の辺にあるのは、あの三国志の周郞の赤壁だと人々はいう
ごつごつした岩は空を突き刺し、怒涛は岸辺を裂き、おびただしい雪のような波が巻き起こる、まさに江山は絵のように美しい、一時にどれほどの豪傑がでたことか
遙想公瑾當年 遙かに想ふ公瑾の當年
小喬初嫁了 小喬初めて嫁し了り
雄姿英發 雄姿英發なりしを
羽扇綸巾 羽扇綸巾
談笑間 談笑の間
檣櫓灰飛煙滅 檣櫓は灰と飛び煙と滅びぬ
故國神遊 故國に神は遊ぶ
多情應笑我 多情應に我を笑ふべし
早生華髪 早に華髪を生ぜしを
人間如夢 人間は夢の如し
一樽還将江月 一樽還た江月に将(そそ)がん
はるかに公瑾(周郞)の生きた三国時代に思いを馳す、小喬が周郞に嫁いでまもなくの頃、雄姿は凛凛として、居住まいは羽扇綸巾(ゆったり)、その周郞が談笑の間の短い時間で、敵艦隊を灰と煙にした、
故国に思いを馳せれば、つい感傷的になって、白髪頭を笑われるかもしれぬ、人生とは一瞬の夢のごときもの、樽を抱えて酒を飲むに越したことはない
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