読売ジャイアンツの清武GMの解任を巡る一連の騒ぎを見せられて、大方の人はうんざりしたのではないか。そこには当事者のどちらがいい悪いの問題を超えて、日本的な組織の陥りがちな病理的なあり方があぶりだされていたからだ。
経緯を簡単にまとめると、清武GMが決定した岡崎ヘッドコーチ構想について、ナベツネこと渡辺会長が気に食わないといって、口出ししたということに尽きる。これに清武氏が反発して公然と渡辺批判をぶち上げたために、読売グループから追放されることになった。
この問題を、一私企業の内紛であるから、そう大げさに受け取るのは大人げないとする意見もあったようだが、いやそうではなく、日本の企業が陥りがちな病理が典型的に現れている事例として、今後の教訓とすべきだという意見もあった。
後者の意見の最も参考になるものは冷泉彰彦氏の論だ。冷泉氏はこれを企業のコンプライアンスの問題として取り上げている。(誤用ではない、清武GMの「コンプライアンス」発言:NEWSWEEKウェブ版)
コンプライアンストはとかくお上の決めたルールに服従することととらえられがちだが、それと同時に、一旦締結した契約を尊重すること、そこに社会的な支配力を行使して不公正な関係を持ち込まないなどといったフェアな契約を尊重することも含まれると氏はいう。
ところが今回は、コーチや選手を含めてスタッフとの契約を取り結ぶ責任者であるGMの決定に、会長が口をだし、結果として読売と云う企業が公然と契約違反をするような事態を作り出した。これが重大なコンプライアンス違反になると氏は言う。
それに加えて、もうひとつ重大なルール破りがある。越権行為だ。渡辺会長は清武GMより二段階上の上司だが、自分自身は巨人軍の経営には直接タッチしていない。にもかかわらず、渡辺氏が現場の人事にあれこれと直接介入するのは重大なルール違反だという。いくら組織のトップといえども、下僚の権限事項にいちいち介入するのは越権行為だというのである。
たしかに氏が言うとおり、防衛大臣が勝手に師団長を首にするようなことが横行すれば、安全保障もへったくれもあったものではないだろう。
この場合の正しいやり方は、オーナーを通じてGMとコミュニケーションを図り、GMに自分の意向を伝えさせることだ。もしオーナーもGMと同じ意見ならオーナーをやめさせればいい。それが今回のように渡辺氏自ら二段抜きで現場の人事に介入するようなやり方は、組織を混乱させる以外のものではない。
冷泉氏は今回の渡辺氏の行動にトップとしての甘えをみている。トップが甘えていては組織の各段階のモラルは低下し、組織全体の活力をそぐことにつながる。
ところで、こうした渡辺氏の甘えは読売の紙面編集にも表れているのだろうか。
筆者は読売の最近の社説にナンセンスなものが散見されることについてこのブログでも指摘したことがあるが、それもまたトップの甘えに左右されているのだとしたら、読売は深刻な病にかかっていると断ぜざるを得ない。
こうした甘えは、老害としかいいようがない。
コメントする