福島第一原発事故による放射能汚染のうち、海洋、湖、河川など水にかかわる汚染の状況はほとんど明らかにされてこなかった。というより、国は水の汚染の状況を調査してこなかったのだ。その穴を埋めるための調査をNHKが独自に実施し、その結果を放送した。(知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~)
水の汚染について国が鈍感だったのは、例の西山審議官の初期の発言にもあらわれていた。審議官は大量(10京ベクレル)の放射能が海にも放出された事実を認めたうえで、海の浄化能力が働き、拡散・希釈するから影響はないといいきっていた。影響がないのだから、なにも手間をかけて調査する必要はないというわけだ。
はたしてそのとおりか。NHKはまず、原発から20キロ圏内の海域の汚染状況を調べた。すると陸上においてみられたホット・スポットと同じような事情が海においても確認された。海底の泥から検出された放射性セシウムについて、最高4520ベクレル(1キロあたり)を示した地点もあった。
20キロ圏外にもホット・スポットは見つかった。30キロ圏のいわき市沖合では1キロあたり300ベクレル、茨城県の日立那珂湊の沖合では380ベクレルといった具合だ。180キロも離れた銚子沖でも、海底の泥の汚染は進んでいた。10月時点で38ベクレルだったものが、12月には112ベクレルに増加していたのだ。これは、汚染が移動していることを物語っている。
魚への影響は、海底で生息するものについて顕著にみられた。20キロ圏内に生息するメバルからは2300ベクレル、アイナメから1400ベクレルといった具合だ。これは泥の中の放射性セシウムをゴカイなどが摂取し、それを食べた魚の体内に蓄積したものと推測される。
湖沼の汚染は23か所で確認された。群馬県の赤城大沼では、わかさぎから640ベクレルの放射性セシウムが検出された。プランクトンからも296ベクレルが検出された。水底の泥からは950ベクレルといった具合だ。
東京湾でも放射能汚染は進行していた。群馬県や栃木県に降り注いだ放射性物質が雨によって川に流され、それらが荒川や江戸川などを通じて、東京湾に流れ込んだ結果だ。荒川河口では最大800ベクレル、河口から8キロ遡った地点で1623ベクレルを記録したところもある。
専門家の予測では、放射能汚染による被害は、セシウムの半減期が3年であることを勘案してもまだ当分は続くだろうという。最低でもあと2年2か月、その後も10年以上にわたって放射性セシウムは色々な形で水質や漁獲資源に深刻な影響を与え続けるだろう。
政府の原発事故被害対策は、海洋や湖沼などの水質汚染をも対象にしなければ、片手落ちになる。
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