一年ちょっとぶりに大腸の内視鏡検査を受けた。前回初めて大腸内にポリープが二個みつかり、それをやはり内視鏡手術で除去してもらった後、担当の医師から1年過ぎたらフォローアップに来なさいと言われていたので、その言葉に従って再検査を受けた次第なのであった。
検査当日は、あらかじめ渡されていたニフレックスという腸内洗浄剤二リットルを、朝七時から二時間かけて飲み、腸内から出てくる液体が透明になったのを確認したうえで、1時間近くかけて病院まで移動し、万全の態勢で検査に臨んだ。検査担当の医師は、外来の窓口とは異なる、内視鏡専門の医師だ。
まず、看護婦さんに指導されて、検査用の服装に着替える。真っ裸になったうえで、尻のあたりに大きな穴の開いたパンツをはき、その上から作務衣のようなものを被るだけだ。
ベッドの上に横向きに寝かせられて尻を突き出すと、担当の医師は肛門にクリーム状の麻酔剤を塗り、内視鏡を装填した管を腸内に嵌め込んでいく。最初は、あまり違和感はなかった。腸壁に痛みを感じることもなかった。しかし、管が少しずつ奥へと進んでいくのに伴い、そのたびに空気が送り込まれるのを感じる。空気を入れることで、腸内を風船のようにふくらませ、写真を撮りやすくするのだろう、と思ったりする。
しかしこれが、腸をふくらまされている立場の人間にとっては、なかなか辛いことなのだった。最初は痙攣のようなものが腸内に走るのを感じて、尻をのけぞらせたりする。とにかく痛いのだ。この種の痛さを差し込まれるようだというのを聞いたことがあるが、まさにその痛さだ。
そのうち、送り込まれるガスの量が増えていくに従い、局所的な痛さに加えて、腹部全体が膨満していくのを感じる。これはこれでまた痛い。膨満が進むと、腹全体が膨らんでいって、蛙の腹のようになった感じになる。
筆者の子供時代に、餓鬼仲間との悪戯に、蛙を捕まえてはその尻から藁しべで空気を送り込んで、蛙の腹を膨らませて喜んだことがあった。その時の蛙の気持ちがいまやっとわかったような気がする。
ああ、俺は、あの時の蛙と同じように、腹を抱えながらこんなにも苦しんでいるのだ、と額から汗のにじみ出てくるのを感じる。筆者らはあの時に、膨らんだ蛙の腹を、針でつついて破裂させたものだったが、今から思えば、なんと残酷なことをしたものか、蛙には今さらかける言葉もない。
筆者の苦しむ様子をみて、医師も同乗してくれるような様子をみせる。かといって苦痛を緩和する措置を講じてくれるわけでも無い。こんなことなら眠くなる薬を飲んでおけばよかったですね、というだけだ。こちらとしては、もう二度と尻の穴から管を入れられずに済むことを熱望するばかりだ。
だが、そう思ったか思わなかった弁別するいとまもなく、医師の言葉が聞こえてきた。モニターテレビの画面を見ろというのだ。痛みをこらえながら恐る恐る見てみると、腸壁に小さなポリープがへばりついているのが見える。なんてこった。
医師はそれを指さしながら、やはり取り除いた方がいいかもしれませんね、外来の先生とよく相談なさってください、といった。つまり有罪判決を受けたわけだ。塗炭の苦しみを受けた挙句に、地獄に突き落とされたような気がした。
とはいえ、そう感情的になってばかりもいられない、というわけで、内科の外来窓口に赴いて、担当医による次回の診察を予約し、来るべき手術に備えることとした。
だが、腹の方はなかなかもとにもどらない。腹全体が蛙の腹のように膨らんだままだし、痛みも治まらない。そんなわけで看護婦さんからは、すぐ食事をしてもいいですよとわれたが、それどころの騒ぎではない。腹を抱え、痛みをこらえながら、やっと家まで戻った後、胃腸薬を飲んで床に寝転がった。
すると不思議なことに、さきほどまで緊張していた腹の筋肉が緩み、尻から大容量のガスが出てきた。世に言う屁のことであるが、腸内は洗浄されて綺麗な状態なので、臭い匂いはしない。ただ腸内に膨満していたガスが、勢いよく音を立てながら、外部に向かって放出されるだけである。
だがその放出のおかげで、筆者の腹はようやく沈静状態を回復することができた。ともあれ、とんだ一日だったというほかはない。(読者の皆さんも、腸内に内視鏡を入れさせる時には、眠り薬を飲んだ方がいいと思います)
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