うつ病は統合失調症(分裂病)とともに長らく心の病とされてきたが、じつはそれ以上に脳の器質的障害と関連していることがわかってきたという。なぜなら、従来の薬物療法では治らない深刻な病態が、脳の特定部分を物理的に刺激することで、劇的な改善につながることが明らかになったからだ。このことから、脳は心の病と云うより、脳の病気であるとする見方が強まってきた。そんな精神医学会の最近の事情を、NHK番組「ここまで来た!うつ病治療」が紹介していた。
番組が紹介していたのは、アメリカの大学病院で行われている、脳深部刺激(DBS)というものだ。これは前頭葉のDLPFC,扁桃体、25領域といった特定の領域をターゲットにして磁気刺激を与えるというものだ。この刺激によって、当該領域の機能が活発化し、それに伴ってうつ病の症状も劇的に改善する、そんな様子を追っていた。
扁桃体は、不安や恐怖などネガティブな感情とかかわりのある部位とされ、これが暴走するとネガティブな感情が強まり、とまらなくなる。DLPFCは判断や意欲などの精神作用にかかわるとともに、扁桃体の暴走を抑える働きをしていると考えられる。ここの機能が低下すると、意欲がなくなるとともに、扁桃体の暴走をゆるし、ネガティブな感情にとらわれるという。また25領域とよばれるところは、DLPFCと扁桃体双方に働きかけているらしい。
番組はまた、うつ病、躁うつ病、統合失調症の診断についての、最近の進歩を紹介していた。この三者には共通する症状があるために、誤診されることが多かったが、光トポグラフィーという装置を使って、脳の働きを解析することで、それぞれの病気のパターンを正確に弁別し、誤診することが少なくなってきたという。
番組では、頭に複雑な装置を装着し、脳に刺激を与える場面が映し出されていた。また、脳内に装置を埋め込み、日常的に脳を刺激しているところも紹介していた。そんな場面をみていたら、筆者は、以前見た映画「カッコーの巣の上で」を思い出した。この映画では、興奮する患者の脳に電気刺激を与えて、静かにさせるところが問題になったが、この番組が取り上げた脳深度刺激は、逆に感情を高揚させようとするものだ。
うつ病の治療には、物理的療法のみではなく、認知行動療法のような精神的療法も一定の効果があることが知られている。心の病という側面も軽視できないということなのだろう。
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