福島原発事故民間事故調の調査結果

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昨日(2月28日)、福島原発事故の原因や問題点などを検討してきた民間の事故調査委員会「福島原発事故独立検証委員会」(北沢宏一委員長)の調査結果が公表された。先日は、政府事故調による調査の中間結果が発表されたところだが、これは独立の立場から事故を検証することで、より広い見地からの原因究明と今後の事故対策に役立てることを目的にしたものだ。

委員会は6人の専門家から構成され、菅直人前首相、海江田万里前経産相、斑目春樹原子力安全委員長ら国の内外約300人から聞き取り調査などをした。しかし肝心の東京電力は、調査への協力を拒否したということだ。

事実認定については、政府の事故調とほぼ同じだ。ただ、清水東電社長による撤退の申し出について、政府事故調は全面撤退ではなく必要な人員の確保を前提にしたものだという東電の主張に一定の理解を示していたが、この報告では、東電が必要な人員数を具体的に示すなどのことをせずに、ただ撤退といっていたことから、東電の主張には根拠が薄いと判断している。

この問題を含めて、事故調は東電の無責任ぶりに批判的で、事故に対する備えが欠けていたことを「組織的怠慢」としたうえで、「原子力の安全文化を軽視してきた」と厳しく断罪している。

政府側の対応についても、情報の把握やら問題への適切な対応が組織的になされず、そのため問題がどんどんこじれていくのを放置する形になったという点で、「場当たり的、泥縄的な対応を続けた」と批判している。

とくに菅総理大臣が果した役割について、功罪両面から評価・批判している。東電が撤退を申し出たときに、自ら東電に乗り込んで叱責し、当事者としての責任意識を持たせたことについては評価するが、他方では菅総理の指揮のあり方が現場を混乱させ、組織的な対応を妨げたと厳しく批判している。

NHKの関連取材でもあったが、たしかに菅総理は独断的で強圧的な側面もあったようだ。それが関係者を委縮させ、必要な情報のやり取りや技術的なアドバイスの遂行を妨げた、こういわれても仕方のない面がある。斑目委員長などは、菅総理に怒鳴られて冷静でいられるのは、余ほどの神経の持ち主でなければできない、といっており、自分が思考停止状態に陥ったのは、菅総理に恫喝されたからだと開き直っている。

とにかく全体の印象として、事故直後における、官邸、東電、官僚機構は適切な連携と冷静な対応ができていなかった。それ以前に原子力の安全対策というものに対する備えが全くできていなかった、そういう印象を受ける。これは恐ろしいことだ。

政府事故調のメンバーを務めた吉岡斉さんは、「日本の原子力分野には、プロフェッショナルな技術者がほとんどいない」といっている。東電はメーカーに丸投げの状態で、自ら原子力の安全をチェック・確保できる体制になっていない、原子力委員会や保安院といった機関も、安全規制という点では素人といってよい。これでは科学者や技術者の責任を云々するまえに、そもそも能力がないのだから如何ともなしがたい。こんなメチャクチャなことを言われたら、国民は原子力発電に安心感を持つことなどできないわけだ。

それにしても、東電はともかく、政府の責任は重大だということが、この報告書から読み取れるようだ。国際原子力機関(IAEA)が、2007年に原子力安全・保安院と原子力委員会の役割の明確化を指摘したが、その際政府は、「国際的基準から見ても非常に優れている」と強弁して、耳を貸さなかったそうだ。その結果国際的な動きからも取り残された「安全規制のガラパゴス化」がおこり、日本の原子力安全体制がますます遅れることにつながった、そう報告は指摘している。

こんな報告を聞かされると、日本が昭和の初期に無謀な戦争に突っ走っていって破滅したことを思い出す。危機管理を欠いた策動は暴走に過ぎない、ということだ。どうも日本の指導者たちは、過去から何も学んでいないようだ。(映像はNHKの報道画面)





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このページは、が2012年2月29日 19:44に書いたブログ記事です。

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