豊穣たる熟女たちと吉野梅郷を行く

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豊穣たる熟女たちと青梅の吉野梅郷を散策した。昨年の暮に西銀座で忘年会をした際、暖かくなって梅の花が咲いたら、みんなで見に行きましょうよと語り合ったことがあったが、その約束が実現した次第だ。前回横浜三溪園の梅を見たときには、梅の花はほぼ散りかけ、しかも後半はあの大地震にまきこまれて、大変な目にあったけれど、今度こそは心置きなく、花を愛でつつ散策を楽しみたいものだわ、と彼女らはいうのだった。

八時過ぎ、待ち合わせ場所の東京駅一番線ホームについてみると、T女とM女が肩を並べて待ちかまえていた。Y女はまだかいと尋ねると、あの人急に用事ができて参加できなくなったんですって、とT女が答える。まあ、三人でもいいや、一日を楽しもうと、青梅行の快速電車に乗り込んだ。

日曜日なので、電車の中はすいている。我々は三人並んで腰掛け、とりとめのないおしゃべりをしながら、窓外の景色を眺めたりする。

毎日が日曜日になって、生活のリズムが狂いませんか、と二人が声をそろえていう。自分なりに計画をたてて、それにしたがってやっているから、リズムが狂うということはないね。食事はあいかわらず自分で作っているの?ああ、手際よいものさ、料理をするのは嫌いではないからね。むしろ息抜きになって、楽しいくらいさ。

そのうちT女が、「緋色の愛」を読みましたわ、といいながらクスクス笑いをする。あの女性にはだれかモデルがいるんですか? いやいや、あれは想像力で書いたものだよ、特定のモデルがいるわけでもないし、自分の体験ということでもない、と筆者はいつか他の女性から同じようなことを質問され、懸命に言い訳をしたことを思い出しながら、答えたのだった。だがT女は、あっさりとした性格とみえ、それ以上立ち入って質問しなかった。

ところで、奥多摩の渓谷には行ったことがあるかい、と筆者が話題を変えると、二人とも初めてだという。吉野梅郷の梅のほかにも、初夏には新緑を映じながら渓流が迸り、秋には紅葉が色鮮やかに色づき、冬は冬で雪景色が素敵だ。一年中楽しめる、しかも都内からそう遠くはなく、運賃も安い。観光地としては、ちょっとした穴場だね。

温泉はあるの、と聞くから、本格的な温泉はないけれど、軍畑や沢井の周辺にはちょっとした宿もあるから、のんびりするのもいいと思うよ。

立川を過ぎると、電車の扉の開閉が自動から手動にかわった。電車が止まっても、客が開閉ボタンを押さない限りドアは開かない。空調の効率を良くするためのアイディアだろう。パリの地下鉄では見かけたことがあるが、日本の鉄道でみるのは初めてだ。

でも大昔にはあったよね、とM女がいう。わたしらの子どもの頃は、機関車のドアは手で開けたような記憶があるよ。それは前後二つドアのついた蒸気機関車の話じゃないの、と筆者は合の手をいれた。たしか、昔の蒸気機関車のドアは手動だったような気がしないでもない。

青梅駅で奥多摩線に乗り換え、二つ目の日向和田で下車した。駅前から南へ延びる道を歩く。道沿いには梅の木が並木として植えられているが、どの枝にも花は殆ど咲いていない。今年は例年に比べ寒気が強かったせいで、大分開花が遅れているのだ。

神代橋を渡って十数分歩くと、梅の公園ということころに至る。名称のとおり梅を集めた、かなりな規模の庭園だが、ここでも開花の状態は良くない。もしもすべて咲きそろったら壮観を呈するだろう。それでも蝋梅は満開になっているし、紅梅の中には八分咲きといったものもあり、そこそこに目を楽しませてくれた。

個々の梅には名称を記した札がかかっている。鶯宿梅とか月陰といった具合だ。鶯宿梅はたしか謡曲の東北にも出てきたのではないかな、そうだとしたらこの種類は和泉式部の頃からあったことになる、そんな俄解説をして熟女たちの教養を高からしめる。

梅は中国から来たんでしょ?とT女が聞く。そうだよ、ウメと云う名前は、漢語のメイを転用したんだ。マアがウマになったのと同じなんでしょ?そうだよ。梅は昔から日本人に愛されていて、平安時代頃までは、単に花といえば梅の花を指したくらいだ。

園内を一周して、反対側の出入り口から外へ出て、寒梅通りと名付けられた散歩道を歩く。民家の庭を含め、沿道は梅の木でいっぱいだったが、咲いている者はほとんどない。

途中土産物を売っている店を覗き、それぞれに買い物をした。筆者は地元の梅からつくった梅干を買った。減塩してあるそうだ。また、道端で果物の干し物を売っている親父から、イチジクの干したものを食ってみろと強く勧められ食ってみた。甘納豆のような歯ごたえだが、味にちょっとした癖がある。トマトの干したやつも売っていたが、これは昨年の江南旅行で土産に買ったやつが、まだ食われずに残っている。

十二時過ぎ、二俣尾駅に着いた。駅前の様子がさっきの駅とよく似ているので、一周して元に戻ったのかと思った、とT女がいう。この人は相当の方向音痴と見える。

列車が来るまでに、25分ほどある。ベンチに腰かけて列車を待っていると、向かいの生け垣の間に小鳥が飛び回るのが見える。目を凝らすと、どうやら鶯のようだ。そのうち、二羽が翼を並べて生け垣の茂みから飛び立った。春を迎えてカップリングの最中とみえる。

二俣尾駅は、村上春樹の小説「1Q84」にも出てくる。不思議な少女「ふかえり」が、保護者と一緒に暮らしているところだ。彼女らの家はどこか明示はされていないが、たとえどこであったにしても、静かなたたずまいに違いないということは伺われる。ここは、どこもかも静寂が満ち溢れている。

やがてやってきた列車に乗って、御岳に向かった。御岳駅前の旅館河鹿園に昼食の予約をいれていったのだ。

列車は沢井駅と御岳駅の間で大きなカーブを描く。この区間で多摩川の流れが大きく蛇行しているからだ。列車の窓から、その様子を眺めていると、見飽きることがない。

列車は午後一時近く御嶽駅に到着した。(写真は梅の公園内の紅梅)





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このページは、が2012年3月 5日 19:12に書いたブログ記事です。

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