人種差別と銃文化:フロリダの黒人少年射殺事件

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フロリダ州のサンフォードで起きた黒人少年射殺事件が全米の黒人社会に怒りの渦を巻き起こしている。この事件はサンフォードのゲーテッド・コミュニティの自警団員を標榜するヒスパニック系の白人が、17歳の黒人少年を射殺したことについて、捜査当局が射殺した男を調査した結果、正当防衛であったとの男の言い分を認めて無罪にしたというものだ。

その後の関係者の証言などから、少年は武器を持たず、たまたまコミュニティを通りがかったところを、自警団の男に射殺されたこと、少年は射殺される直前にガールフレンドに携帯電話をかけ、不気味な男がいることなどを不安げに話していたことがわかった。

このことから、正当防衛を主張する男の言い分はおかしい、さらにその言い分を鵜呑みにして男を釈放した捜査当局はもっとおかしい、という批判が高まり、これは明らかに人種差別だとの声が、黒人社会を中心にまきおこった。少年が仮に白人だったとしたら、こんな事件が起きる可能性は殆どゼロだったはずだ、黒人に対する男のバイアスが、過剰な攻撃につながったのだ、こういう意見が広範に湧き上がった。

司法省もこうした意見を無視できなくなって、再調査の必要性を訴えるようになり、またオバマ大統領も、少年の死に深い哀悼の意を示した。

アメリカの司法制度からして、地方の司法当局の管轄事項に連邦機関がどこまで関与できるかは疑問であるが、少なくとも、この問題が全国的なレベルで論じられることで、これを管轄する司法当局に再調査への圧力となることは間違いないだろうとみられている。

この事件は今のところ、人種差別の側面が強調されているが、同時に見逃せないのはアメリカの銃社会の特殊性だ。アメリカでは、重大な銃犯罪が起きるたびに、銃規制のあり方をめぐって議論が巻き起こってきたが、なかなか銃を規制しようという動きには結びついてこなかった。それどころか、アメリカは銃に対して近年寛容になっているとの見方もある。

それを裏付ける動きが、最近二つ見られた。ひとつは昨年起きたギフォード事件だ。この事件では多数の人々が銃で殺され、しかも現職の下院議員が狙われたにもかかわらず、これをきっかけにして銃を規制しようとする意見は殆どでなかった。

もう一つは、銃の使用を正当化するような立法措置が、全米の各州で進んでいることだ。「正当防衛法("stand your ground" law)」と呼ばれるこの法律は、自分の身に差し迫った危険を感じた場合、銃を使うことは正当防衛として免責の対象となると規定している。フロリダにもこの法律があり、今回もそれが適用された結果、男は免責されたということになっている。

こんな背景があるから、今回の事件は単なる人種差別事件とはレベルの異なる問題を孕んでいるといえる。(写真はAPから)





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このページは、が2012年3月26日 20:05に書いたブログ記事です。

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