会社をやめられない:いびつな労使関係

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日本では、会社員は自分の意思だけで会社を辞めることが権利として保障されている。民法627条で、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と、規定されているからだ。

ところが、会社をやめたくても、やめさせてもらえない正社員の数が、最近急増しているという。長年労働者を支援してきたNPO法人・労働相談センターによれば、"退職拒否"に関する相談がこの2年で3倍に増えたそうだ。なぜ、そんな無法状態がまかり通っているのか、NHKが報道していた。(やめさせてくれない ~急増する退職トラブル~)

会社側が退職拒否をするのは、使い勝手のよい社員、つまり安月給にもかかわらず、こつこつとまじめに働く社員たちだ。急にやめられると補充が間に合わないとか、社員の育成にそれなりの費用をかけて来たとか、そんな理屈で社員の意思を撤回させようとするのは序の口で、中には違法な手口で脅しにかかる輩が横行しているらしい。

NHKが紹介していたのは、離職票を発行しない、未払い賃金を払わない、普通退職ではなく懲戒解雇扱いにするといったけちなものから、中には、その社員の退職によって会社の利益に穴が開いたという口実で、損害賠償を求める者もあったそうだ。

これらはいずれも違法な行為であるから、社員のほうから争う姿勢を見せれば、みな勝てるケースである。実際、会社側から2000万円を超す金額を賠償請求されたケースでは、会社側の主張が退けられたばかりか、社員に対して未払い賃金等1000万円を支払えとの判決も出た。このケースでは、会社側は、社員のやめた穴を役員が埋めたとして、その役員の報酬まで請求するといった、やくざまがいのメチャクチャな請求までしていた。

こうした異常な状態が生じた背景には、労働市場における構造変化があるのではないか。非正規雇用の拡大や、労働組合の弱体化にともない、労働をめぐる企業側のコンプライアンスがないがしろにされる一方、折角正規雇用にありつけた社員の間に、正当な権利に対する委縮した感情が蔓延しているのではないか、と番組は示唆していた。

やめたくても、やめられず、低賃金のまま企業に身柄を拘束されているような状態は、人間の奴隷化としかいいようがない。こうした事態がますます広がるようだと、日本経済はそのうち、奴隷制資本主義ともいうべき陰惨な事態に陥る恐れがある。





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このページは、が2012年4月27日 19:03に書いたブログ記事です。

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