金子勝氏の小泉構造改革批判

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2000年代10年間前半の小泉政権時代に展開された所謂小泉・竹中構造改革路線に、金子勝氏は手厳しい評価を下している。その論点を大まかに言えば、アメリカによるグローバリゼーションの要求に盲目的に追随したために、日本経済を大きく毀損し、失われた10年を更に延長させて、失われた20年にしてしまったというものである。

小泉・竹中構造改革の柱は、金融の自由化と労働の流動化だ。金融の分野には、アメリカのいう国際会計基準を導入することで、金融機関による貸し渋りを助長させ、また金融ビッグバンと称される規制緩和によって、モラルハザードと呼ばれる現象を助長させた、と氏はいう。

日本の金融機関は、土地バブルの破裂によって巨額の不良債権を抱えたままだったが、小泉政権の時になっても、その抜本的な解消というには程遠い状態だった。そこへアメリカの要求に応じて国際会計基準が導入され、金融機関は自己資本比率を維持する責任を負わされたために、貸し出しの圧縮へと動かざるを得ず、それが企業に対する貸し渋りをもたらし、日本経済を長期的な低迷に陥れた、という氏の指摘は良くわかる。

また、金融機関の実質国有化が問題になった時に、何故モラルハザードを起こした金融機関を国民の税金を使って救済しなければならないのか、大きな議論が巻き起こったことも思い出す。

労働市場の流動化政策は、サプライサイド・エコノミクスの専売特許のようなものだが、小泉・竹中構造改革は、派遣労働の範囲拡大などを通じて、日本の雇用情勢を一気に流動化させた。その結果生まれたのは、非正規雇用のすさまじい拡大と、ワーキングプアと呼ばれるような貧困層の登場と格差の拡大だった。

結局、小泉・竹中構造改革による「金融や雇用の規制緩和が生んだのは、村上ファンドやグッドウィルといった<隙間企業>であった。その謳文句とは違って、市場任せでは新しい成長分野が生まれなかったのである。」(新・反グローバリズム)と氏は言うのである。

小泉・竹中コンビのやったことのなかで、ひどいことはほかにもある。「骨太の方針2002」以降、診療報酬が継続的に引き下げられ、地域の中核病院の経営が悪化するとともに、病院から追い出されて医療難民化する人たちが膨大な数にのぼるようになった。

このように、小泉・竹中構造改革は、日本の国のあり方を、広範囲にわたってゆがめ、破壊してしまった、というのが氏の基本的な評価である。

思えば日本国総理大臣になった小泉純一郎氏が、自民党をぶっ潰すといって、選挙民から拍手喝采を浴びたことが夢のようである。あの当時の人々は、小泉氏の言葉のどこに共感したのだろうか。

小泉氏のやったことは、自民党どころか、日本という国のかたちを壊したことではなかっただろうか。そして日本人の多くが、結果としてその破壊作業に手を貸した、ということになったのではなかったか、筆者などには、どうもそんなふうに思われる。

小泉氏自身は、「格差のどこが悪い?」といって、自分が格差社会を作り出したことについては、聊かの痛痒も感じていないようではあるが。





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このページは、が2012年5月19日 19:04に書いたブログ記事です。

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