スペイン・ベイルアウトの舞台裏

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EUがスペインの銀行支援として100億ユーロを拠出することにスペインのラホイ首相が同意した。「同意した」というのは、直前までスペインがEUによる支援を拒絶しており、それに対してEUが、危機が深刻化する前に、支援を要請しろというシグナルを出していた事実があるからだ。

ラホイ首相は今でも、これはベイルアウトではなく、銀行に対する融資だといっている。彼がそんなにもベイルアウトの拒絶にこだわるのは、ベイルアウトを受け入れることは政治家としての死を意味することを知っているからだ。

ベイルアウトを受け入れることは、財政や政策の面で様々な条件を課せられ、事実上主権を制約されてしまうことを意味する。ギリシャの例を見てもわかるとおり、一旦EUの慈悲にすがってその統制下に置かれてしまっては、独立国としての体裁はなくなってしまう。それを恐れたからこそ、ラホイ首相は最後までベイルアウトの受け入れを拒絶していたのであるし、また仮にそうならざるを得ない事態に陥るとしても、なるべく有利な条件で救済資金を勝ち取りたい、そんな思惑が働いていたのだと推測される。

一方、EUにとっては、域内で第四の大国であるスペインが、深刻な危機に陥ることは、EU全体の崩壊につながりかねないという懸念があった。だから危機がまだ制御可能なうちに、なんとか手を打たねばならない。折悪しく、6月17日には、ギリシャでの総選挙のやり直しが迫っている。もしそこでツィプラスが勝利し、反緊縮路線が進められるようになると、ギリシャのユーロ圏離脱が現実のものとなり、それによって醸し出される金融不安が一気に広がりかねない。とりわけスペインにそれが波及すると打撃は甚大だ。こんな不安が強く働いたからこそ、EU首脳が一致団結して、今回の融資決定に走ったのだろうと推測される。

支援する側、される側に、以上のような思惑があった故に、スペインという国自体に対してではなく、スペインの銀行に対して必要な資金を注入するという形をとったわけだ。それ故ラホイ首相は、これはスペインに対するベイルアウトではなくただの融資だと、国民に対してとぼけることができたし、EU諸国はとりあえず金融不安を先延ばしできたと胸をなでおろしたというわけだろう。

ところで、今回の支援対象になったスペインの銀行についていえば、不動産バブルが崩壊して不良資産の処理に窮し、バランスシートが一気に悪化したという点で、かつて不動産バブルがはじけた直後の日本の金融機関と同じような事情を抱えている。あの時の日本は、政府による資本注入で事態を乗り切ったわけだが、今のスペイン政府には銀行に資本注入する余裕はない。そこでその資金をEUに立て替えてもらったというわけだが、その結果スペインの銀行はスペイン政府ではなく、EUに直接統制されることとなる。

スペイン政府についていえば、自分の国の銀行の救済資金を他人に用立ててもらったために、銀行に対する統制権も他人の手にゆだねることとなる。EU圏内での出来事とはいえ、グローバリゼーションが一層進んでいるわけだ。





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このページは、が2012年6月12日 09:34に書いたブログ記事です。

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