「アルジェリアのバラ」として知られる歌手ワルダ(Warda Al Jazairia)が、5月17日にカイロで、72歳で死ぬと、大勢の人々が弔問のために集まってきたそうだ。彼女はウム・カルスーム(Oum Kalthoum)と並んで、アラブの連帯のシンボルだったという。
彼女が1960年ごろにヒットさせた「偉大な民族」という歌は、アラブ世界の連帯と、植民地支配への戦いを歌ったものだった。その歌詞は次の通りだ。
我が祖国 アラブのいとしい人々よ
イエメンもダマスカスもジェッダも
勝利の声に包まれてあれ
マラケシュとバーレーンの間には
連帯の歌声が響いている
我が祖国 我が恵みの大地
自由の砦よ
この歌声が流れていた頃、アルジェリアはフランスとの間で反植民地・独立戦争を戦っていた。アルジェリアに限らず、中東から北アフリカにかけて、この時代には反植民地闘争がアラブ世界の各地で繰り広げられていた。ワルダのこの歌は、そんな祖国とアラブの同胞たちへのオマージュだったわけだ。
ワルダの歌声は、彼女の死の直前にも高らかによみがえった。今度は、アラブの春へのオマージュとしてだ。若者たちは、ワルダの歌声の中に、抑圧者への抵抗とアラブ世界の団結を感じとったのだろう。
しかし、独裁者たちを追放したアラブ諸国にとっても、決して明るい未来が見えているわけではない。アラブ諸国はどこでも、若者が大多数を占めているにかかわらず、新たに登場したものも含めて、統治者たちはみな老人ばかりだ。この老人たちに、国の未来を託すことができるのか。
アラブの若者たちにとっては、前途はいまだ不確実性に満ちているようだ。(写真はNewsweekから)
コメントする