大阪から大阪市がなくなる:後ろ向きの大都市制度改革

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民主、自民、公明にみんなの党と国民新党を加えた与野党5党が、橋下「大阪都」構想を実現させる法案を今国会に提案することで合意したそうだ。内容を一言でいえば、今まで東京都に限って適用されていた特別区制度を、他の道府県にも拡大適用できるようにしようと言うものだ。

法案は地方自治法の改正ではなく、特例法として位置付けられている。概要は以下のとおりである。

・人口200万人以上をカバーする市町村(関係市町村という)の範囲を単位にして、そこに特別区を置くことができる。
・関係市町村とそれを管轄する道府県(関係道府県という)は、関係市町村を構成する市町村の廃止とその区域における特別区の設置について協議するための協議会(特別区設置協議会という)を置く、協議会は、特別区の設置についての基本計画(特別区設置基本計画)を作成する。
・この基本計画をもとに、関係市町村及び関係道府県の議会の承認を経たうえで、特別区の設置の是非について、当該市町村及び道府県の選挙人の投票(住民投票)に付す。
・住民投票の結果有効投票数の過半数の同意があった場合には、関係道府県及び関係市町村は共同して、関係市町村の廃止と特別区の設置を総務大臣に申請する。
・総務大臣は、申請に基づいて、関係市町村の廃止および特別区の設置について定める。

改正の要諦は、東京都のうち特別区の存在する区域のみに適用されていた制度を、その他の道府県の大都市区域においても適用できるとしたことだ。

その結果どういうことになるか。当面のイシューとなっている大阪圏に関していえば、大阪市という自治体が消滅して、いくつかの特別区に分割され、従来大阪市が担ってきた大阪市全体にかかわる広域的な行政事務は大阪府に吸い上げられるということである。つまり、大阪から大阪市が消えるわけだ。

大阪市が消えたからといって、大阪という都市の行政サービスが劣化せず、そこに住む住民が不便にならなければ問題はない。また、大阪府が大阪市の区域にかかわる広域事務を吸い上げることによって、二重行政が解消されたり、また自治体経営にメリハリがでるのであれば、それに越したことはなかろう。

だが、そんなにうまく運ぶかどうかは、誰にもわからない。東京では成功したのではないか、という意見もあるが、東京に特別区がなんとか根付いた背景には、東京固有の様々な課題との戦いがあった。

そもそも東京に「都」制度が適用されたのは、東京市民による下からの要求ではなく、戦時下の政府の権力を背景にした上からの強要であったわけだ。その際の最大の目的が、首都行政の一元化を通じて、戦争の効率的な遂行を側面から助けることだった点は、大方の認めるところだろう。

戦時中の制度が戦後も残されたのは、戦後復興をなるべく効率的に遂行させようとの意思に基づいたものだ。そこには住民による自治よりも、首都機能の充実が優先するという政治的な意図が働いていた。

このように、「東京都」という制度は、権力によって強要された制度であったわけだが、それだからといって東京の市民が自治の放棄に甘んじたわけではなかった。特別区単位での住民自治を充実させる工夫と並んで、都の権力機構にもなるだけ住民の意思を反映させる努力を重ねてきたのである。こうすることで、「東京都」制度を持続可能な制度としてきた。いわば、与えられた器に住民が魂を吹き込んできたわけである。

旧東京市と違って大阪市は、自治体としての長い伝統とそれに基づく住民自治の実績を積み上げてきた歴史がある。だから市政の改革を云々するのなら、大阪市という大都市に相応しい一層の行財政資源の強化が論じられるのが筋道だと言える。ところが、今回の改正案は、大阪市を解体して大阪府に大都市行政の権限を吸い上げるというもので、地方自治と言う点では、前進ではなく、後退と言うべきである。

これは、いってみれば、ニューヨーク市を五つの区に解体し、従来のニューヨーク市が持っていた行財政上の権限をニューヨーク州が吸い上げるようなものだ。それはニューヨーク市民にとっては、市民自治の否定であり、後ろ向きの大都市制度と映るのは間違いないだろう。同じことが大阪市の場合にもいえる。

それにしても、今回の与野党の動きには目を見張るものがある。橋下氏の政治力に動かされたというのが大方の見方だが、それだけではあるまい。住民自治より行政効率を重んじる姿勢が、橋下人気を逆手にとって、大阪市の解体を促進させようとしているのではないか。

先日は政令指定都市市長会から、政令市に道府県の権限を持たせることにより、大都市制度を上に向かって希釈化させるのではなく、下に向かって根の深いものにしようとの提言がなされたばかりだ。地方自治の充実と言う点では、むしろこちらの方が王道だと言える。にもかかわらず、この案が真剣に検討された形跡はない。というよりか、橋下案でさえ十分に検討されたとはいえず、政治的な勢いに乗ってバタバタと決まったという印象を与える。


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