メルトダウン 連鎖の真相:福島原発事故

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野田政権は、大飯原発を再稼働させるにあたって、福島原発事故の徹底的な原因究明とそれを踏まえた厳密な再発防止策が図られたことに言及していたが、果たしてそうなのか。事故の原因はもれなく究明され、今後福島と同じような規模の自然災害が発生しても十分に対応できる体制が整ったのか。

残念ながらそうとはいえない、というのが、7月21日夜放送されたNHKスペシャル番組「メルトダウン 連鎖の真相」のスタンスだ。この番組では、東電社員はじめ事故の当事者数百名から直接インタビューするなどして、事故の全容を再現していたが、その結果、東電はもとより、政府、国会、民間の事故調がどれも触れていないような事実があるし、したがって原因が完全に究明されたとはいえないばかりか、再発防止対策も極めてあやういといった実態が浮かび上がってきた。

もしNHK番組の言うとおりだとしたら、野田総理大臣は国民の前で嘘をついたと言われても仕方がない。

番組が注目したのは、2号機と3号機だ。2号機は3月15日朝にメルトダウン、3号機は3月14日に水素爆発とメルトダウンを起こしたわけだが、1号機の場合とは異なって、地震。津波発生からメルトダウンに至るまでには、かなりの時間的な余裕があり、それなりの対応がとられていたら、事故は最小限にとどまった可能性が高いと指摘していた。

これまでに出された様々な事故調査報告内容は、細かいニュアンスの違いを脇に置けば、津波によって全電源が焼失し、機器類が動かなくなったために、原子炉の冷却ができなくなり、その結果炉内の温度が急上昇してメルトダウンにいたったというものだった。とくに東電の場合には、地震による機械類の損傷はなく、すべてが津波によって引き起こされたというスタンスを強くとっていた。

ところがNHKの詳細な調査によれば、2号機も3号機も、津波の直後から電源が消失して機器類が全面的にとまったわけではなかった。機器類はスペアの電源で動く状態であった。そうした状態のもとで、緊急にとるべき対策は、炉内の圧力を下げて給水を可能にし、それによって炉内を冷却することだった。

炉内の圧力を下げる方法はふたつある。ひとつはSR弁という装置を稼働させ、炉内の気体を放出させること、もうひとつはベントである。このベントがなかなか動かずに、関係者が気を揉む場面が繰り返し放送されたから、国民に馴染みが深い。

なぜこうした事態が起こったのか。一番もっともらしいシナリオは、地震のショックによってSR弁装置や、ベントに必要な配管類などが損傷していたということだ。もしそうなら、かりに外部電源が供給されていたとしても、炉内の冷却ができなかったということになる。

これまで国民は、原発事故の原因は外部電源の喪失にあり、それを引き起こしたのは想定外の津波による想定外の影響だったと聞かされていたわけだが、実際はそうではなかったということになる。

NHKの言い分は、2号機も3号機もメルトダウンに至るまでには十分な時間の余裕があったのであり、しかもその時間内に何がなされねばならないか、その道筋もわかっていた、にも拘わらず、適切な対応がとられずに、ずるずると事態を悪化させ、考えられる限りで最悪の事態を招きよせてしまった。

まるで、人間が災害に見舞われたのではなく、人間が災害を引き起こしたとの言い方である。福島原発事故は人災だったとはよく言われる言葉だが、その人災と言う言葉の内実には様々なトーンがある。NHKの言い分が本当なら、福島原発事故は暗黒の人災だったということになる。

事故後毎日流されてくるテレビ映像を見ながら、国民は一刻も早く事故収束の見通しが立つのを期待していたものだが、ヘリコプターによる水の空中散布や、消防車による放水、そして外部電力復旧のための大規模な作戦など、決して無意味とはいえないまでも、どこかピンとの外れたことで右往左往していたのだと、いまさらに思い知らされるのである。

こんなわけであるから、福島原発事故の徹底的な究明がなされ、それを踏まえて完璧な再発防止体制が図られるなどとは、まだ誰も言えないはずだ。





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このページは、が2012年7月22日 19:03に書いたブログ記事です。

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