ボスは最後の晩餐の関連作品として「死後の世界」を描いた四枚一組の作品を作った。死後の世界とは、死んでからキリストによる最後の審判を待つまでの間、暫定的に身を寄せる場所のことで、地上の天国と暫定的な地獄とならなる。もちろんこれは、聖書に書かれているものではなく、民衆の間の迷信に過ぎなかったが、中世末期の人たちは本気でそれを信じていたのである。
ボスより一世代前のネーデルラントの画家ディルク・ボウツ(Dirk Bouts)もこのテーマを描いている。しかしボウツが、同一の画面のなかに、地上の天国にいる人と、そこから本物の天国に向かって昇天していく人を、ともに描いているのに対して、ボスはそれらを4つの画面に分けて書いた。
すなわち、地上の天国、暫定的な天国への上昇(昇天)、暫定的な地獄、それへ向かっての降下、この四つの画面である。
ここにある地上の天国とは、正しき者の魂が一時的に身を寄せる場所である。おそらくそれは、中世の民衆にとってはエデンの園のごときものだったに違いない。
この絵では、楽園の彼方に、河が流れる長閑な田園が広がっているが、そこは実世界の風景なのだろう。背景として描かれているからかもしれないが、灰色がかった色彩で、楽園の華やかさとは対照的な印象を与える。
楽園の中では、正しき者たちの魂は、人間の生き姿をとって、それぞれグループごとに、天使にエスコートされて安らいでいる。そのうちの一つは天の方を見上げているが、彼等にはあるいは天国が見えるのかもしれない。
(パネルに油彩、87×40cm、ヴェネチア、ドゥカーレ宮殿)
関連サイト:壺齋散人の美術批評
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