豊穣たる熟女たちと尾瀬を歩く

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翌日の朝は6時に床を出て浴場へ降りていくと、M女がホールのソファに身を沈めて転寝をしている。声をかけると朝風呂につかったばかりで、いい気持になって寝なおしているのだという。他の二人は部屋に戻ったそうだ。筆者は朝湯が苦手なので、風呂には入らず髭を剃るだけにとどめた。

7時に昨夜と同じ部屋で朝食をとった。熟女たちはみな爽快な顔つきをしている。よく眠れたかい、ときくと、ぐっすりと眠れましたよ、それに朝風呂にも入って爽快な気分ですの、今日一日を頑張れそうよ、と熟女たちは口をそろえて言う。気分が爽快なので食欲も旺盛らしく、三人ともご飯のお代わりをした。これなら馬力も出そうだ。

朝食を済ますと、昼用の握り飯を受け取り、8時に旅館前の停車場から路線バスに乗り込んだ。バスは途中の停車場でマイカーからの乗り継ぎ客を詰め込んで、沼山峠の登山口に向かう。途中ブナの原生林なるところを通りがかる。斜面に沿ってブナの林が広がっているというが、上から見下ろす格好なので、一面に青葉の海が広がっているように見える。

9時頃に沼山峠に到着した。そこから尾瀬沼までは大してかからない。尾瀬の登山口としては、もっとも歩く距離の短いコースなのだ。

30分ばかりの登り道と、20分ばかりの下り道を歩くと、平らな湿原地帯に出た。湿原の先には尾瀬沼がゆったりと広がっているのが見える。その沼を目指して、木道を歩く。ややしてニッコウキスゲの大集落が現れた。キスゲのほかに、カキツバタやワタスゲ、オニアザミなどが咲いている。

木道の所々には簡単な休憩所が設けられていて、人々が腰を下ろして休んでいる。我々も休憩所を見つけるたびに腰をおろし、付近の花を眺めたり写真を撮ったりするので、なかなか前へ進まない。というより、そんな道草をするのにふさわしい場所なのだ。

折からヘリコプターが大きな音を立てて空中を旋回している。足元には大きな荷物をぶら下げている。注意して見ていたら、山小屋の付近で荷をおろし、その代わりにごみをぶら下げて戻っていった。

10時半ごろ長蔵小屋に着く。大勢の人が腰をおろし、中には早めの昼飯を食べているグループも見かける。我々は、もう一つ先の山小屋で食べようということにした。

長蔵小屋の玄関先に、岩走りの湧水があった。手ですくって飲むとうまい。湧水の傍らにはピンク色をした百合の花がびっしりと咲いている。花弁の数はキスゲと同じく6枚だが、一枚あたりの幅が広いので、遠目には百合と言うより、つつじのように見える。

11時過ぎに尾瀬沼山荘に着く。ここからは、湖の先に燧ケ岳の全容が見える。絵になる眺めだ。小屋の前にはたくさんのベンチが並んでいたので。我々はその一つに尻を並べて、弁当を広げた。うれしいことに小屋の売店では生ビールを売っている。熟女たちにも飲むかいと聞いたところ、遠慮しておくわという。トイレが近くなるのをはばかっているのだろう。

早朝からずっと晴れていたのに、あまり暑く感じない。汗もほとんどかいていない。やはり高度のせいだろう。この地点で1700メートルあるというから、下界より10度は低いはずだ。

食後、湖の傍らに立つ。足元にはモーターボートが繋いである。地元の人に限って漁が認められているのだろう。

湖を一周するのにどれくらいかかるのかしら、と熟女らがいうので、登山地図で調べてみたら、2時間半とわかった。それじゃあ、がんばって歩けないことはないわね、という。でもこれからじゃ無理かもね。山小屋にもう一晩とまったら楽でしょうけれど。

ああ、ここの山小屋は、最盛期には男女別々の部屋に入れられ、それも身を折り重ねての雑魚寝だったというけれど、今はグループ単位で個室もとれるみたいだね。要するにそれだけ登山客が減ったんだよ、と筆者はいった。尾瀬に限らず、昔の山小屋はどこでも、男女入り乱れての雑魚寝というところが多かったものだ。

再び姿を現したヘリコプターの音を聴きながら、大清水方面に向かって歩く。三平峠までは上り道で、そこから先は下り一方だ。周囲は山林で視界が殆ど利かない。しかし、途中に石清水があったり、高山植物が咲いていたりで、飽きることはない。

山道は一之瀬休憩所で終り、そこから先は車の通る林道だ。休憩所では、キュウリやトマトを売っていたので、熟女たちはキュウリに味噌をつけて食べた。筆者はトマトに塩を振りかけて食った。こんなところで食うものはなんでもうまいのだろうが、このトマトの味は格別だった。子どもの頃に、おやつ代わりに食べたトマトやキュウリの味を思い出した。

2時半ごろ大清水の中継基地に到着した。上毛高原行のバスが3時に出る。ちょうどいいタイミングだ。皆でソフトクリームを舐めながら疲れを癒し、3時丁度にバスに乗り込んだ。バスの中はそんなに混んでおらず、しかも途中でマイカーへの乗り継ぎ客が降りてしまうと、両手で数えられるほどの人数になった。

5時に上毛高原駅に到着。切符を買った後、売店で弁当を仕入れようとしたら、もう販売終了だという。他に売っているところはないかと尋ねると、どこにも売っている店はないという。なんと商売気のないところなのだろう。仕方なく、缶ビールとつまみを買って車内で飲むこととした。がっかり顔の熟女たちには、東京駅に着いたら、軽く食事をとることにしようといって慰めた次第だ。

帰りの新幹線は、5時22分発のマックス・谷川号。どの車両もガラガラにすいている。我々は先頭車両の二階席に乗り込んだが、ここも我々のほかに男性客が一人いるばかりだった。

ビールを飲みながら旅の総括をした。泊まり込みでする初めての旅だったけれど、とても楽しかったわ。温泉は気持ちがよかったし、旅館もまあまあだった。サンショウウオは食べられなかったけれど、ヤマメの御刺身と塩焼きが最高においしかった。山歩きもあまり無理がなくて、私らみたいなものでもちゃんと歩けたわ。おかげでいくつか若返ったような気がする。熟女らはそう言って、大いに喜んでくれたのだった。





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このページは、が2012年7月23日 18:55に書いたブログ記事です。

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