NHKが尾瀬を紹介する番組を放送した(奇跡の湿原 尾瀬)。先日例の仲良しの熟女たちと尾瀬を散策したばかりで、その雄大な光景がいまだ瞼の奥に焼き付いていた筆者は、半ばは懐かしさから、半ばは知識欲から、画面に見入った次第だった。
番組で紹介していたのは、尾瀬ケ原の湿原地帯だった。筆者らが先日歩いたのは尾瀬沼の周辺だったから、眺めは多少異なっているが、基本的に異なるとこ
ろはない。ただ、水芭蕉やニッコウキスゲの群落は、尾瀬沼周辺より密度が高いように思えた。
番組では、昨年の大豪雨で湿原が大分荒らされていた事実を紹介していた。150年に一度と言う大雨で、湿原に点在する小湖沼に泥水が流れ込んで白濁してしまったというのだ。
水の白濁はゆっくりと時間をかけて解消された。尾瀬特有の地質が、水の循環を難しくさせ、濁りが亡くなるのにも相当の時間を要するというのだ。
尾瀬の地質の特徴は泥炭からなっていることにあるという。尾瀬は、氷河期の終わりに火山の噴火によって只見川の源流がせき止められ、それによってできた自然のダムに植物の残骸が沈殿し、長い時間をかけて泥炭層ができあがった。泥炭層は密度が高く、空気や水を保存したり循環したりすることが少ないので、水が白濁するとなかなか透明さを取り戻さず、植物の生育にも厳しい条件なのだという。
そんななかでも、尾瀬の環境に適した様々な植物が独自の生態系を作り上げている。水芭蕉などは、尾瀬ならでの湿潤で寒冷な環境に適用した成功例だということらしい。
尾瀬の環境を最も大きく特徴づけているのは、アカシブというものだ。これは、湿原に含まれている鉄分が参加したものを指すのだが、普通は深海の火山の周辺にあって、エビなどの深海生物の餌となるバクテリアの飼料となるものだ。
アカシブが現れるのは、雪解けが終わって湿原が露出する春先のことだ。アカシブの出現とともに、アカシブを餌として莫大な量のバクテリアが繁殖する。するとそのバクテリアを餌として、ガガンボなど尾瀬独特の昆虫類が育まれるということだ。
尾瀬には一年を通じて美しい景色が展開するそうだ。筆者は夏にしか訪れたことがないが、アカシブの現れる春先から、山々が紅葉にそまる秋を経て、一面が銀世界とかする冬、それぞれに幻想的な光景が展開するというから、夏場以外にも行ってみたい気がする。
とはいっても、尾瀬の冬は厳しいそうだ。なまじっかな挑戦は尽く跳ね返されてしまうというから、筆者のような老人には、あこがれは心の中にとどめておいたほうがいいのかもしれない。(写真はNHKから)