ペンギンの愛と川嶋あいの歌

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先日、NHKの特集番組が、極地に生きる動物たちの姿を追跡していた。その中で特に印象深かったのは、北極圏の白熊と、南極の皇帝ペンギンたちだった。

白熊という動物は、一年中餌があるわけではなく、海に氷の張った冬の間に、氷の上から海中のアザラシを襲って捕獲しているのだそうだ。白熊が冬の間に出産するのは、そのことと関係があるという。氷のない季節には、アザラシを捉える機会はなくなり、何ヶ月も、何も食べないで過ごすらしい。

ところが近年、北極の冬の海は、氷を張ることがだんだん少なくなってきた。地球温暖化の影響が、北極圏にしわ寄せされて、顕在化しているからだ。氷がないと、白熊は狩ができない。このままでは、白熊の未来が危ない。

一方、南極の皇帝ペンギンたちも、冬の厳しいさなかに産卵し、子育てを始める。彼らは、季節の穏やかな間は、海辺に暮らして魚をとっているが、冬の訪れとともに、100キロもの距離を歩いて内陸部に集合し、そこでカップルを作って卵を産む。卵の数は一つの季節にひとつだけだ。その卵は、直ちに雄が引き取り、自分の足にのせて、腹の下で温める。

産卵後、雌は歩いて海へと向かう。その後は雄だけで卵を温め続けるのである。

冬の厳しさが増すにつれ、ブリザードが吹き荒れ、ペンギンたちは氷漬けになる。抱いた卵を外気にさらすと、見る見る間に凍ってしまう。雄たちは卵を守るために必死になる。厳しい寒さの中では、卵どころか、自分たちでさえ凍死しないともかぎらない。

そこで彼らは、互いの体温で暖めあうために、一点を中心に螺旋形を描くようにして、重なり合い、密着しあう。内にいるものは時折外のものと交代して、全員が恩恵にあずかれるよう、譲り合う。ハドルというのだそうだ。

卵を抱き続けること数十日。この間、卵を抱いた雄は何も食わずに寒さと戦い続ける。かくして、孵化した雛に、雄は腹の中の一隅に残しておいた餌を、吐き戻して与えるのだ。なんとも感動的な父性愛ではないか。

ところが、雄が卵を抱えていた間に、雌のほうは海辺でしっかりと餌をとり、それを腹の中に蓄えて、雛のかえる頃に戻ってくるのだ。カップルはすぐにお互いを確かめ合い、雛は雄から雌へと引き継がれる。

筆者はこれをみて、自然の摂理の奥深さに改めて感心した。餌のある場所と、産卵する場所とが余りにも離れているために、皇帝ペンギンのカップルはこのように分業することで、乗り切ることを学んだのだろう。何故雄が卵を抱き、何故雌が餌を確保するためにその場をはなれるか、それは、それぞれの体質に根ざした選択だったのかもしれない。

ペンギンのカップルの再会シーンは感動的ですらあった。嘴をあわせながら、互いに再会を喜んでいる様子は、人間の我々にもよく伝わってくるのである。雄は雌の帰りを信じていたからこそ、寒さに耐えて卵を抱き続けたのだろう。雌は家族との再会を励みに、100キロもの長い道のりを、ブリザードと戦いながら往復したのだろう。

鳥類は夫婦の絆の固いこと、生き物の鏡とされている。皇帝ペンギンもやはり、鳥類だったのだ。同時に、親が子を思う情もまた、強いものがあるらしい。子を失った親ペンギンが、親を失った子ペンギンを抱こうとして、雌同士競い合う場面が出てきたが、これはその現われなのだろう。

とかく殺伐な風景に彩られている昨今の人間の世界にあって、ペンギンたちの生きる姿に、生き物に共通する愛というものの原点を、垣間見たような気がした。

ところで、この番組が放送された翌日、今度は、シンガーソングライター川嶋あいさんを特集した番組が放送された。

川嶋あいさんは、まだ20歳という若さだが、十代の若者から老人まで、幅広い層から支持を受けている。「ありがとう」などの歌声が、聞くものに不思議な勇気を与えてくれるからだという。歌の活動以外でも、たとえば、神戸地震の被災者を見舞ったり、親を失った子どもたちを励ましたりしているらしい。彼女自身、実の両親と、育ててくれた養父母を、小さい頃に失ったという。

その彼女が、傷ついた人たちに手を差し伸べる姿は、自然で、わざとらしさがなく、人が人を思いやる気持が滲み出ていた。彼女と話す人たちの表情にも、心を開いて、信頼している様子が伺われた。神戸の地震で被災したという初老の男性は、彼女の歌によって生きる力を与えられたと、心から語っているようだった。

そのやり取りが、第三者である筆者の目にもすがすがしくうつった。愛が、人びとを、かくも結びつけるのだ。

筆者が川嶋あいという女性を見たり聞いたりしたのは、実はこれが初めてだった。だが、ブラウン管を通じて一見してだけで、彼女の人柄に暖かいものを感じたのである。

この人は、愛というものを、一身に体現することのできた、稀有な人なのだろう。

川嶋あいさんと、ペンギンたちの愛が、重なろうとして重なったわけではない。しかし、愛の不毛が人びとの心を荒廃させている今日この頃、彼女と、そしてペンギンたちの愛には、我々今日の世に生きる人々を、励ましてやまぬ何かがある。

世の中、まだ捨てたものではない。

あいさん、愛を歌い続けておくれ。そして、ペンギンたちの愛も歌っておくれ。


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このページは、が2007年1月13日 13:39に書いたブログ記事です。

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