結婚に見る階層格差:アメリカの場合

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配偶者を持たないアメリカ人女性の割合が、2005年には既に51パーセントに達していたとの、人口センサスの分析結果が先日発表された。1950年には35パーセント、2000年には49パーセントだったから、女性の単身者が急速かつ確実に拡大していることを物語っている。

マスコミはこの数字を捉えて、アメリカでは結婚しているカップルは少数派になったと、ショッキングな報道振りだ。以前は女性の晩婚化や法律婚外での同棲生活が問題となっていたが、現在では、離婚の増加と再婚の減少が独身女性の増大に拍車をかけている。女性が結婚生活に魅力を感じなくなっているのかもしれない。

独身女性の数の内には、夫と死別した寡婦も含まれるから、長寿化の進行を考えれば、シングルの女性が増えるのは時代の趨勢という側面もあるが、それにしてもこの数字は尋常ではない。

先日のニューヨーク・タイムズには、「何故かくも多くの独身者」“Why are there so many singles?” という記事が載った。性差を問わず独身者が増えていることの社会的背景を分析したものだ。

記事は、最近話題の映画を取り上げながら、女性がシングルを選ぶにはそれなりの理由があると指摘することから議論を始めていた。たしかに映画が訴えているように、結婚を馬鹿馬鹿しいと感じるキャリアウーマンが増えているのは事実だろう。その結果男の方でも、なかなか結婚相手を探せないことともなる。

女性の独身者が増大しているということは、裏をかえせば男の独身者も増大しているということだ。

だが、本当に着目すべき問題は、女性の価値観の変化にはとどまらない。結婚したくてもできない層が増えつつあることに、深刻な問題が潜んでいるというのだ。記者は、この事態をさして“結婚ギャップ”といっている。新たな形の階層格差である。

一般人の感覚では、学歴の高い女性ほど、結婚しない者の割合が高くなると思われている。ところが事実はそうではない。

人口センサスによれば、25歳から34歳までのいわゆる適齢期の女性のうち、大学卒業以上の高学歴層は59パーセントが結婚しているのに対して、高卒以下は51パーセントに過ぎない。学歴の高い女性は、結婚時期が遅れる傾向はあるが、結婚の確率は高く、しかも、離婚する割合は低いという結果が出ている。低学歴層は、結婚年齢は相対的に早いが、離婚する確率も高い。一旦離婚した女性は、再婚をためらう傾向が強い。

一方、同年齢層の男性については、大学卒業以上のものの結婚率は50パーセントなのに対して、高卒以下は47パーセントである。このギャップは、30台後半以降年齢が上がるにつれて拡大し、最大で10ポイント以上の開きを見せる。

学歴をパラメーターにした議論だが、学歴の差は実は所得の差と同義なのがアメリカという国である。アメリカは資格社会といわれるように、資格の有無が社会的な地位や所得に直結する。その資格の多くは、大学教育を通じて与えられる。だから学歴が人の一生に及ぼすものは、日本の比ではない。

つまりは、所得格差の拡大が、結婚のチャンスにも格差をもたらしていると、記事は指摘しているのだ。

アメリカも、一昔前までは、学歴に乏しいブルー・カラー層でも、それなりの所得を保証され、人生に希望の持てた時代が続いた。労働市場を始め社会のあちこちに、安定装置が機能していた。ところがそうした安定装置が次第に変質し、階層間の格差が拡大しつつある。その結果が、“結婚ギャップ”という形で尖鋭化しているという。

ところで、日本の場合はどうか。確たる統計データが手元にないので、全貌はよくみえぬが、同じような傾向は進んでいるのだろう。

平成の時代を通じて広く深く進行したファンダメンタルの崩壊と格差の拡大が現実問題として浮上し、その結果ワーキングプアと呼ばれる人々が大量に出現した。ワーキングプアは経済難民としての性格をもっているが、それは併せて結婚難民でもある。つまり、所得が低い余り、結婚したくても出来ない階層が大量に出現しつつある。

日本は近い将来、世界に例を見ない超高齢社会になると予想されている。併せて少子化現象が懸念されている。これに結婚ギャップの拡大が加わるとどうなるのか。

少なくとも、この国の招来人口構成予測は、思いもかけずドラスティックな修正を余儀なくされるだろう。その先のシナリオは、あまり考えたくはないものだ。


関連リンク: 日々雑感

  • ワーキング・プア(平成の経済難民)





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    このページは、が2007年1月27日 14:40に書いたブログ記事です。

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