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アラブ世界の結婚難:社会不安の火種


中東のアラブ人たちにとって、結婚は人生の最大関心事であり続けてきた。アラブ世界においては、男は結婚して家庭を持つことによって、始めて一人前と認知される。独身の男は、いくつになっても一人前とはみなされず、社会的・経済的な不利益を被りやすいという。

こんな社会にあって、結婚したくともできない男たちが増大し、深刻な社会現象になっていると、最近のニューズウィーク誌の記事が伝えている。”The Arab Marriage Crisis; In the Middle East, marriage is in deep crisis, for financial reasons. By Navtej Singh Dhillon”

まず統計数字に目を通すと、10年ほど前までは、アラブ世界の男たちの63パーセントが20台後半までに結婚していた。それが今日では、50パーセントにまで落ち込んだ。最も低いのはイランの38パーセントで、マグレブ、レバント、モロッコが続く。アジアでは77パーセント、ラテンアメリカでは69パーセント、アフリカでは66パーセントだから、これがいかに低い数字か、納得される。

若者の結婚率が低下した理由は経済的な事情だ。まず結婚式に莫大な費用がかかる。エジプトでは、結婚式ひとつあたりにつき、6000ドルの費用がかかるが、これは若者の標準年収の4-4.5倍に相当する。1985年以降のインフレにより、物価が上昇したのに対して、収入のほうはそれほど伸びていないことの結果だ。といって、面子を重んじるアラブ人は、結婚式を粗末に扱うわけにはいかないのだ。

次に結婚生活そのものにも金がかかる。一昔前なら、路上にテントを張って、新婚生活を始めることもできたが、今ではそういう訳にはいかない。花嫁は嫁入り道具を沢山持ってくるようになったし、西洋的なライフスタイルに接した近年の若者たちは、自分たちの家を持ち、文化的な結婚生活を送りたいと考えている。

こうした高いハードルがある一方、アラブの若者の失業率は30パーセントという高さだ。職があれば、いづれは結婚できるだけの蓄えも期待できようが、失業者たちには、その見込みもない。また、アラブの子どもたちには親を扶養する気持ちが強いから、貧しい親を抱えた者は、自分の結婚まで手が回らない。

現在、ヨーロッパには多くのアラブ人が移住しているが、その背景には、以上のような問題も作用していたのだ。国で結婚できなかった若者たちが、ヨーロッパへ出稼ぎにいって、そこで結婚生活の望みをかなえるのだ。

結婚できない若者たちの不満は、社会不安の火種となって、あちこちでくすぶっている。だいたい、全人口の60パーセントを25歳以下の若い人々が占めるという世界で、若者に未来が見えなくなったとしたら、どうなるだろうか。

ヨルダンでは、「イスラム兄弟団」が安価な集団結婚式の提供と無利子の結婚ローンとで若者の支持を集めた。また、イランのアフマドネジャド大統領は、若者に結婚補助金を交付することで、政治的な足場を保っている。一方、若者の結婚に無頓着なレバノンでは、若者たちはなすこともなく、日々路上を歩き回っている。

歩き回るしか用のない若者たちで国中が溢れたら、いつ爆発しないとも限らないだろう。


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