アメリカの2月から3月にかけてはアーモンドの開花シーズンだ。桜に似た花を咲かせ、夏には実がなる。アメリカ人が最も好む木の実の一つだ。この実をならせるための受粉の作業には、蜜蜂が大いに活躍する。今では、商業用のアーモンドの殆どが蜜蜂の世話によって、受粉するのだという。ところが今年、その蜜蜂たちが大量に消えているというニュースが全米を賑わせた。
ニューヨークタイムズの記事 “Honeybees Vanish, Leaving Keepers in Peril :
By Alexei Barrianuevo” によれば、西海岸では30パーセントから60パーセント、東海岸やテキサスでは70パーセントもの蜜蜂が行方も知れず消え去ったという。どこに消えたのか、また何故そうなったのか、真相はわからないまま、蜜蜂業者たちに大打撃を与えた。
過去(1980年台)にも蜜蜂が大量死することはあったが、今年のは、数量といい範囲といい、比較にならぬ規模だという。
専門家はいろいろと憶測して、考えられる原因を列挙しているが、興味深いのは、何らかの理由で蜜蜂の帰巣本能に異変が起き、巣に戻ることが出来ないまま、疲労や寒さで死んでいるのではないかという説だ。
この説は、蜜蜂の帰巣本能を乱す要因としてストレスをあげている。蜜蜂といえば、子どもの絵本を飾るに相応しい牧歌的な生き物であり、かつては花の間を自由に飛びまわっては蜜をなめ、その副産物として受粉も行われていた。ところが今では、コマーシャリズムの進行によって、受粉専門に働くことを強いられるようになった。これが蜜蜂たちに過大なストレスをもたらしているのではないか、というものである。
アメリカでは、生産者との間で受粉を請け負う養蜂業者が寡占化、大規模化してきている。業者たちは何億という蜜蜂を飼い、それを巨大なトレーナーに積んで、全米の農場の間を行き来している。今や、蜜蜂にとっては、トレーラーが巣であり、花畑は日々変わる働き場所だ。かつては、自然の摂理にそって繁殖していたが、今では労働の繁忙期に併せて生殖をコントロールされている。この結果、女王蜂の平均寿命が短くなってもいる。
不自然な環境を強いられることによって、蜜蜂のストレスがたまり、その結果、蜜蜂本来の帰巣本能がダメージを受けているのではないかと、この説は警鐘を鳴らしている。
一方、病気の説もある。蜜蜂たちの働き場所たるアーモンドの森や、アヴォガドの畑には農薬が散布されているが、これが蜜蜂に悪い影響を与えているのではないか、また巣箱の中に生息するダニ類が悪い影響を及ぼしているのではないかなど、色々と考えられている。悪影響として最悪なのは、それらが蜜蜂の免疫力を低下させることだ。人によっては、これを蜜蜂にとってのAIDSと呼ぶ。
いづれにしても、本来牧歌的な生き物であるはずの蜜蜂が、人間の都合によって、生き方まで返られてしまったのは、尋常のこととはいえない。
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