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強まるプーチンの独裁


ヴラヂーミル・プーチンの独裁的体質は、かねてより指摘されていたことではあるが、最近は度を超したものになってきつつあるようだ。情報通の中では、プーチンはすでに一線を越えて、スターリン並の独裁者になったとする見解が強まっている。

そんなプーチンの最近の姿を、ニューズウィークの記事が伝えている。Putin: Beating Down Democracy - With his latest bloody crackdown, Vladimir Putin takes a step futher toward outright dictatorship.By Owen Matthews and Anna Nemtsova : Newsweek International

プーチンはこれまで、政敵の追い落とし、メディアの統制、巨大資本の囲い込みなどを通じて、権力を自分に集中させてきたが、その仕上げとしてすべての政党を骨抜きにしてしまった。国内の政治勢力を3つに分類し、それを3つの政党にはめ込んで活動の自由を与える代わりに、プーチン政権への固い忠誠を誓わしたのだ。プーチン自身はこれを、「統制された民主主義」といって、合理化しているようだ。

ひとつは「公正ロシア」といい、いまや無力になった旧共産党勢力をかき集めている。もう一つは「民権」といい、比較的リベラルな連中を集めている。最大の政党は「統一ロシア」で、これはプーチンの親衛隊だ。どの政党もプーチン政権を礼賛していることにおいては、翼賛政党である。別名を「ポチョムキン政党」というらしい。

これらの政治的枠組みから外れた連中は、非合法組織として、徹底的に弾圧される。最近、モスクワとペテルブルグでいくつかのデモがあったが、その弾圧ぶりはすさまじかったようだ。先週モスクワで行われた2,000人規模のデモには、8,000人の警官が襲いかかり、行進する者の頭を叩き割って、400人を監獄にぶち込んだ。

警官たちはまた、デモの周辺を歩いている者をことごとく尋問し、不審と思われる者を次々と逮捕した。現場に居合わせたニューズウィークの記者も、警察のヴァンに詰め込まれ、非合法活動の罪を負わされそうになったという。

この騒ぎに巻き込まれ、警官に蹴られてあばら骨を折られたある市民は、怒りが収まらない。この市民はいままでデモなどとは無縁だったが、これからは断固として戦うと宣言している。そうでないと、自分たちの国は北朝鮮並みになってしまう、そういって彼はロシアの現状を憂えるのである。

盤石な政権基盤の上に立っていると見られるプーチンが、何故こんなにも神経質になるのか。ひとつには、ベレゾフスキーらの政敵がまだ生き残っていて、ロシアに一定の影響力を持っていることへの恐怖感があるようだ。ベレゾフスキーは、先日ロンドンから声明を発し、プーチンを力によって打倒するよう呼びかけた。ロシアのような風土にあっては、独裁者は暴力を以て倒さねばならないと、訴えたのである。

プーチン政権は今回の弾圧を、海外勢力による政権転覆の謀略を粉砕するために行った、やむを得ぬ措置だったと弁解してもいる。

プーチンのヒステリックな反応はまた、彼の政治家としての未熟さにも由来している。プーチンはイェリツィンによって、権力闘争の闇の中から抜擢された男である。政治家として、節度ある議論を戦わせた経験もなければ、選挙キャンペーンを戦ったこともなかった。彼の政治手法は、KGBの手法の延長であり、権力を維持するためには、なりふり構わず暴力を振り回すというものである。

部外者には安定していると見られる彼の支持基盤も、そう固いものではないらしい。国民の3分の2が自分は不幸だと感じ、半数以上が政府のやり方に満足していない。こんな状況の中で、石油価格が下落したりすれば、プーチンの政権基盤など、あっさりと崩れてしまうかもしれない。

プーチンはそのことを冷静に理解しているからこそ、自分の意にならぬ事態に対しては、暴力的に振る舞わざるを得ないのだ。


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