先稿「アーモンド栽培と蜜蜂」の中で、アメリカの蜜蜂が大量に消滅していることを紹介した。その時点では季節柄、アーモンド栽培への影響が懸念されたのであったが、蜜蜂の消滅はその後も止まるところをしらず、さまざまな農作物に深刻な打撃をもたらしつつあるという。
というのも蜜蜂はいまや、受粉植物にとってはなくてはならないパートナーだからだ。蜜蜂の恩恵で受粉し実を結ぶ植物は90種を越える。リンゴ、ナッツ、アヴォガド、大豆、アスパラガス、ブロッコリー、セロリ、スクワッシュ、キュウリなどの野菜のほか、柑橘類、桃、キーウィーフルーツ、サクランボ、各種ベリー類など多くの果物に及ぶ。
実際、人間の食事を彩る食べ物の内、3分の1は動物を媒介役にした受粉によって実を結ぶ植物であり、その8割は蜜蜂の恩恵を蒙っているのであるから、蜜蜂が消滅することの影響は計り知れないものがある。
今回の蜜蜂消滅騒ぎは昨年の11月に始まり、現在ではアメリカを超えて、ブラジル、カナダ、ヨーロッパの一部にまで拡大しているそうだ。
原因はいまだに究明されていない。事態を深刻に受け止めたアメリカ農務省は、国をあげて原因究明に乗り出した。
原因としては、いくつかのものが考えられている。寄生虫、ヴィールス、バクテリア、殺虫剤などが候補にあがっているが、いまのところ決め手となる情報は得られていない。蜜蜂の巣を放射線消毒すると効果が上がるという報告もあるようなので、あるいはマイト(ダニ類)のような寄生虫が主役なのかもしれない。
だがそれだけでは説明できない部分が多いので、専門家は、単一の原因だけではなく、いくつかのファクターが複合的に作用している可能性があると考えている。
蜜蜂の遺伝子を分析した結果では、蜜蜂はハエや蚊などに比較して、抗体の能力が低いという。その結果、伝染性の因子に対して抵抗するすべをもたず、一時に大量に死ぬのかもしれない。
一方、先稿で紹介したストレス説やAIDS説については、いままでそれを裏付けるような積極的なデータは得られていないようだ。
これまでに記録された蜜蜂消滅のケースにおいては、死んだ蜜蜂が巣の周りに大量に発見された。ところが、今回のケースにおいては、ミツバチが跡形もなく消え去っていることが特徴だ。
ある日突然、コロニーには女王蜂と子ども蜂とを残して、一匹の働き蟻も見えなくなってしまうのだ。養蜂業者は降ってわいたような災難に、頭を抱えるばかりだという。
(参考)
Honeybee die-off threatens food supply By Seth Borenstein : AP
関連リンク: 日々雑感
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