プーチンの親衛隊

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先日、エストニアのタリン中心部に据えられていたソビエト兵士の像が撤去されたことをめぐり、ロシアとエストニアの間で険悪なムードが高まったが、その直後からエストニアの政府機関や公共部門に対する猛烈なサイバー攻撃が発生し、インターネット社会エストニアは深刻な機能不全に陥った。

エストニアはこれをロシア政府による卑劣ないやがらせだと主張し、西側諸国に援助を訴えた。当のロシア政府は関与を否定しているが、サイバー攻撃がロシア国内から発信されていることは明らかであり、まったく無関係だというロシア政府の言い分を鵜呑みにするものはいない。

事情通のジャーナリストたちは、この攻撃について、最近ロシア社会の表舞台に登場してきたある不気味な組織の仕業だろうと見ている。

その組織とは、「ナーシ」Наши“Ours”という名称のイデオロギー的な青年団体である。クレムリンの強力なバックアップのもとで形成されたらしいが、オフィシャルな団体ではない。プーチンとその体制への忠誠を唯一のスローガンとし、プーチンの敵を攻撃するのが使命であるとされる。2004年頃から青年を集め始め、現在では10万人の規模にまで膨れ上がったという。モスクワやペテルブルグなど主要都市の郊外に集団的に配置され、時折軍事訓練を実施したりして有事に備えるとともに、反体制派の集会やデモ行進を粉砕する役目も果たしているらしい。

プーチンがこんな組織を作ろうと思い立ったきっかけは、2003年頃をピークに湧き上がった旧ソ連邦構成諸国での民主化運動のうねりだったようだ。ウクライナ、グルジア、キルギスタンなどで盛り上がった民衆のうねりは、政権を打倒する力を見せ、これら諸国の西欧化の流れを加速させた。プーチンはそれをアメリカの陰謀と決めつけ、そうした動きが自分の足元に及ぶことを極度に恐れたのだろう。西欧型民主化に対抗し、強いロシアを実現するには、高い忠誠心をもった草の根組織が有効だ、こうした判断のもとでНашиは作られたのだと思われる。

Нашиはいまのところ、自発的な組織としての体裁を装っているが、規模の拡大とともに、次第に民衆の目に触れる機会が多くなってきた。最近のプーチンは反体制と見られる連中への弾圧姿勢を強めており、それらの弾圧にあたってНашиを利用する場面が出てきているようだ。

とにかく最近のプーチンは、対立するものへの敵対姿勢を隠そうとしない。国内の反体制派はいうに及ばず、世界中の誰であっても、自分と対立するものはすべてファシスト呼ばわりしている。そしてНашиの成員たちにとっても、プーチンの敵はすべてファシストだ。ファシストを殲滅し、ロシアとプーチンの利益を守ることが彼らの正義なのである。

Нашиはいまや、プーチンの私設軍事組織としての色彩を強めつつあるようだ。反体制派のデモの際に、ユニホーム姿でパトロールする彼らの姿が人々に目撃されることが多くなり、先日はモスクワ郊外で軍事的演習を行う姿が、人々の目に不気味な印象を焼き付けた。

そんな彼らを、ある反体制派知識人はヒットラー・ユーゲントになぞらえて、プーチン・ユーゲントと呼んでいる。

(参考)
Putin’s Powerful Youth Guard By Owen Mathews and Anna Nemtsova : Newsweek


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