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矛盾のバラード(ヴィヨン:ブロアの歌合せ)


フランソア・ヴィヨンは、1456年に引き起こしたあるトラブルがもとでパリにいることができなくなり、諸国を放浪するようになった。その旅の途中、文芸の保護者で名高いシャルル・ドルレアン公を頼り、ブロア城に立寄ったことがあった。

ブロア城は、パリの南方、ロアール川沿いにある街である。シャルル・ドルレアン公は英仏戦争の際、フランス側の英雄として果敢に戦ったが、アザンクールの戦いに敗れて25年もの間イギリスに幽閉されていた。

晩年は捕囚の身から開放されてブロア城に住み、詩人たちの庇護者となった。自らも詩を作っている。

そんなシャルル・ドルレアン公が、ブロア城で催した歌合せの席上、フランソア・ヴィヨンも歌を作ってシャルル・ドルレアン公にささげた。「矛盾のバラード」がそれである。

この詩もまた、カーニバル的なあべこべの世界感覚があふれた作品である。シャルル・ドルレアン公が気に入っただろうことは、十分に考えられる。

(矛盾のバラード:拙訳)

  泉の傍で俺は渇きで死にそうだ
  高熱に見舞われ歯ががたつく
  故郷にありながら異邦人
  炎に包まれ寒さに震える
  裸の姿は虫のよう市長の姿にそっくりだ
  笑いは涙希望はない
  陽気になろうと絶望しても
  楽しいことは何もない
  力強さは実は無力
  歓迎は追放のための狂言芝居

  不確かなものほど確かなものはない
  明らかなものはみな曖昧
  確実なものは疑うに足る
  智恵とは偶然の賜物だから
  手に入れたものはなくしたもの
  神よ 夜明けに眠りを与えたまえ
  身を横たえれば転落の危険
  銀行の金庫には一銭もない
  唯一のあてが他人の遺産じゃ
  歓迎は追放のための狂言芝居

  せいぜいせいを出したおかげで
  用もないものを買うことができた
  親切めかしは信用がならぬ
  口のうまい奴ほどだますのもうまい
  本当の友とは虚言を弄し
  白鳥をカラスだといってくれる奴
  そして棘のある言葉で助言する奴
  真実も虚偽も帰するところは同じなのだと
  あれこれと考えても筋道にはこだわるな
  歓迎は追放のための狂言芝居

  イエス・キリスト お聞き入れたまえ
  我は学びつ ありとあらゆる無用の知を
  とるに足らぬこの身なれど お目にかけ慈しみたまえ
  ところでもう幕も閉まる 質草でも出しにいくか
  歓迎は追放のための狂言芝居


(フランス語原文)
Ballade du Concours de Blois : par Francois Villon

  Je meurs de seuf auprès de la fontaine,
  Chaud comme feu, et tremble dent à dent ;
  En mon pays suis en terre lointaine ;
  Lez un brasier frissonne tout ardent ;
  Nu comme un ver, vêtu en président,
  Je ris en pleurs et attends sans espoir ;
  Confort reprends en triste désespoir ;
  Je m'éjouis et n'ai plaisir aucun ;
  Puissant je suis sans force et sans pouvoir,
  Bien recueilli, débouté de chacun.

  Rien ne m'est sûr que la chose incertaine ;
  Obscur, fors ce qui est tout évident ;
  Doute ne fais, fors en chose certaine ;
  Science tiens à soudain accident ;
  Je gagne tout et demeure perdant ;
  Au point du jour dis : "Dieu vous doint bon soir !"
  Gisant envers, j'ai grand paour de choir ;
  J'ai bien de quoi et si n'en ai pas un ;
  Echoite attends et d'homme ne suis hoir,
  Bien recueilli, débouté de chacun.

  De rien n'ai soin, si mets toute ma peine
  D'acquérir biens et n'y suis prétendant ;
  Qui mieux me dit, c'est cil qui plus m'ataine,
  Et qui plus vrai, lors plus me va bourdant ;
  Mon ami est, qui me fait entendant
  D'un cygne blanc que c'est un corbeau noir ;
  Et qui me nuit, crois qu'il m'aide à pourvoir ;
  Bourde, verté, aujourd'hui m'est tout un ;
  Je retiens tout, rien ne sait concevoir,
  Bien recueilli, débouté de chacun.

  Prince clément, or vous plaise savoir
  Que j'entends mout et n'ai sens ne savoir :
  Partial suis, à toutes lois commun.
  Que sais-je plus ? Quoi ? Les gages ravoir,
  Bien recueilli, débouté de chacun.


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