コンドーム広告の微妙な一線

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アメリカの大手コンドーム会社トロージャンが作成したコンドームのテレビ向け広告を、4大ネットワークの二つ、フォックスとCBSが拒否したというニュースが伝わり、大きな関心を呼んでいる。

その広告とは次のような内容だ。バーのカウンターに一人の女性を囲むように大勢の豚たちが腰掛けている。みな耳に携帯電話をあてて話をしている。そのうちの一匹がやおら立ち上がるとメンズルームに入り、自動販売機からコンドームを買う。すると振り向いた豚の顔は20代の男の顔に変身する。男が席に戻って女性にコンドームを見せると、女性はOKという表情をする。最後にポップアップされた字幕には、「進化しよう、するときはいつもコンドームを使おう」というメッセージが映し出される。

女と男の恋の駆け引きを小気味よく描いたセンスあふれるCMである。

フォックスとCBSは何故この広告を拒絶したのか。両者は公には詳しい説明をしていない。ただ、フォックスは当事者への文書回答の中で、コンドームの使用は病気の感染予防の見地からなされるべきで、避妊を前面に出すべきではないと主張したそうだ。

どうやら両社は、この広告が避妊を呼びかけているようにみえることに、抵抗感を覚えたのだろうと、消息筋は推測している。

この広告はコンドームが女性の心をとらえたと訴えることで、コンドームの効用を強調している。しかし何故女性の心をとらえたかは説明していない。何気なく見れば、コンドームとセックスの快楽がストレートに結びついているだけだ。そこが謹厳な人々の癇に障ったのかもしれない。

多くのアメリカ人にはまだ、避妊や堕胎を悪とする宗教感情が根強い。あれだけ性的欲望に寛容で、4大ネットワークでもソフトポルノを流して怪しまない国柄にかかわらず、こと避妊ということになると、神経を尖らせることころがある。だからコンドームがセックスの喜びを強調する影で避妊を促進すると受け取られることに対しては、及び腰にならざるを得ないのだろう。

日本人には、こうした態度は偽善的に映るが、当のアメリカ人には悩ましい問題なのだ。

アメリカ社会にけるコンドームの使用率は、他の先進国より低いといわれる。専門家によれば、性交時の4分の一に使われているに過ぎない。自然なパートナーシップを重んじるアメリカ人の傾向が現れているということらしい。

トロージャンのようなコンドーム会社はだから、マーケットにおける自社のシェアを伸ばそうという目論見より、コンドーム市場の拡大そのものを図る傾向がある。トロージャンの今回のCMにおいても、会社の名前は前面には出さず、ひたすらコンドームの効用を強調している次第だ。

コンドーム会社はあの手この手で、コンドームの売り込みに努めている。性感染症の予防は、コンドームの売り込みに追い風となったが、意図したほど市場は拡大しない。そこで最近は、女性にターゲットを絞り、パステルカラーのパッケージに包んだり、魅力的なアクセサリーをつけたりしている。併せてコンドームが性病の予防にとどまらず、妊娠からも開放され、豊かなセックスを心置きなく楽しめると強調するようにもなった。

フォックスとCBSはそこに、超えてはいけない微妙な線を見たのだろう。アメリカでは自動車の販売にセックスを利用することは許容されても、コンドームの販売に過剰なセックスを持ち込むことには抵抗する人が多いようだ。ややこしい社会である

ただ、ABCとNBCはこの広告を受け入れている。ケーブルテレビや商業ネットサイトなど、他の多くのメディアもこれを流すという。見たい人はいつでも見られる。

〔参考〕Pigs With Cellphones, but No Condoms By Andrew Newman : NYTimes


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