戸棚:ランボーのノスタルジー

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「戸棚」はランボーの詩の中でも、写実的な描写といい、古いものへのノスタルジックな感傷といい、変わった位置を占めている。ランボーの詩には他に、こうした雰囲気の作品は見当たらない。

ランボーがどこでこれを書いたか、よくはわかっていないが、おそらく2度目の家出の際、泊めてもらった家で書いたのではないかと思われる。

この詩には、ラザルシュの詩に触発されたところもあるらしい。


(戸棚:拙訳)

  彫り物のある大きな戸棚 樫の木の年代物
  風格があってどっしりとして年寄りのようだ
  扉を開けるといろんなものが出てくる
  古いワインのようないい匂いがするぞ

  中からはあらゆるものが飛び出してくる
  鼻をつく匂いの黄ばんだリネン
  女子どものモスリンやあせたダンテル
  グリフォンの刺繍を施したハンカチーフ

  でっかいメダルのほかに
  ブロンドや白髪の鬘 ポートレート
  甘酸っぱい匂いがするドライフラワー

  昔の世界から甦った古い戸棚
  昔話を聞かせてくれよ
  黒くて大きなお前の扉をきしませながら

(フランス語原文)
Le buffet : Arthur Rimbaud Octobre 70

  C'est un large buffet sculpté ; le chêne sombre,
  Très vieux, a pris cet air si bon des vieilles gens ;
  Le buffet est ouvert, et verse dans son ombre
  Comme un flot de vin vieux, des parfums engageants ;

  Tout plein, c'est un fouillis de vieilles vieilleries,
  De linges odorants et jaunes, de chiffons
  De femmes ou d'enfants, de dentelles flétries,
  De fichus de grand'mère où sont peints des griffons ;

  - C'est là qu'on trouverait les médaillons, les mèches
  De cheveux blancs ou blonds, les portraits, les fleurs sèches
  Dont le parfum se mêle à des parfums de fruits.

  - O buffet du vieux temps, tu sais bien des histoires,
  Et tu voudrais conter tes contes, et tu bruis
  Quand s'ouvrent lentement tes grandes portes noires.


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    I thought you were going to chip in with some decisive insigth at the end there. Not leave it with 'we leave it to you to decide'

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