卵子の冷凍保存:体外受精の新しい展開

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体外受精の技術は今や確固としたものとなり、不妊に悩む人々に光明を投げかけている。この技術を簡単に説明すると、卵巣から成熟した卵子をとりだし、それを試験管の中で精子と結合させた後に、子宮に戻すというものである。

体外受精の技術は取り出したばかりの卵子について行われるのが基本であるが、近年は冷凍卵子についての研究も進み、2005年4月には、カナダのマクギル大学医療センターにおいて、冷凍した卵子から始めての子どもが生まれた。

卵子の冷凍技術は、主に卵巣がんの患者の不妊対策として開発されたという。卵巣がんが発見されると、その患者は早かれ遅かれ不妊の状態におちいることが予想される。そこで、放射線治療などを始める前にあらかじめ卵子を取り出し、冷凍保存した上で、機が熟したときにそれを用いて出産に結び付けようと考え出された。

卵子の細胞は非常に壊れやすく、また受精の能力を持つためにはある程度の成熟が必要なので、卵子の選別とその保存には、細心の注意が必要だという。

通常の体外受精の場合でもそうだが、解凍のうえ人工授精を施された卵子は子宮への着床率が低い。そこで人工妊娠に当たっては、2個以上の受精卵が子宮内に定置される。

世界で最初となった上述の女性の場合、卵巣の中で一時に非常に多数の卵胞が形成される体質であったために、自然妊娠では母体が危険にさらされる恐れがあった。そこでこの技術が適応されたのだという。この女性の場合、生まれてきた子は一人であった。

この成功がきっかけとなって、自分の卵子を冷凍保存する女性が徐々に増え、マクギル大学では現在、10数名の女性がこの方法によって妊娠しているという。

また中には、自分のためではなく、娘のために自分の卵子を冷凍保存する女性も現れた。

カナダのある女性は、7歳になる娘がターナー症候群という病気のため、将来不妊となることが確実と知らされ、娘のために自分の卵子を冷凍保存することとした。娘がそれを使うかどうかは娘自身の判断にゆだねるが、少なくとも子どもを得る喜びを選択肢として残しておいてあげたいと、母親はいっているそうだ。

従来、姉妹間で卵子の提供がなされたことはあるが、母子間では例がない。もし娘がこの方法による出産を選んだとしたら、生まれてくる子は、遺伝的には彼女の兄弟姉妹ということになる。

この技術は、人間とは何か、またどうあるべきかについて、倫理上の新しい問題をもつきつけている。

〔参考〕
・First frozen egg baby born in Canada: McGill University Health Center
・Girl could give birth to sibling By Michelle Roberts: BBC


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