女子の割礼

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男子に対する割礼は、ユダヤ人社会やイスラム教圏において、長い文化的背景と歴史を有している。それは宗教的な理由から、一種の通過儀礼としてなされてきたのだと思われる。恐らくユダヤ教が始原で、そこからアラブ社会に伝わったのではないか。

男子の割礼は、陰茎包皮を切除するものであるが、その行為自体は、単に衛生的な理由から行われる場合もある。現にアメリカ人男性の多くは、宗教的な背景に基づかず、陰茎包皮の切除手術を受けているといわれる。いわゆる皮被りの状態では、包皮の裏側に細菌が付着しやすく、性感染症の可能性も高まるので、それを防止するのが目的らしい。したがってこれは割礼と呼ぶべきものではなく、予防的医療行為というべきだろう。

これに対して、女子に対する割礼 Female Circumcision は、アフリカのナイル川流域やサハラ周辺諸国、またアラビア半島のイェメンやオマーンにおいて広く行われている。これはクリトリスあるいは小陰唇の一部又は全部を切除するもので、まだあどけない少女を対象に行われる。

何故こんなことを行うのか、日本人には理解しがたい。衛生上の利点もなく、女子にとっては災厄以上のものをもたらすとは到底思えないのだ。

おそらくそこには宗教的、文化的な背景があるのだろう。クリトリスを除去することによって、女性の性欲を鎮め、夫に貞節を尽くさせる効果も、期待されているらしい。

ヨーロッパ諸国でも、女子の割礼は文化的に無縁なものだった。だが近年その風習を持つアフリカ系移民が増えるにしたがい、俄然深刻な社会問題として取り上げられるようになった。いままで存在しなかった(彼らにとって)異常な風習が、突如社会に出現したからだ。移民とはいえ、自国民の一部に、そのような反社会的かつ残虐な行為が行われているのを、黙視するわけにはいかない、そこが本音だったのだろう。

イギリスでは女子の性器を切除する行為 Female Genital Mutilation は傷害にあたる犯罪行為であるとして、最高14年の懲役刑を定めた法律が2003年に制定された。フランスやアメリカでも女性器切除は禁止された。それでもわざわざアフリカに赴いてまで、女子に割礼を施す者が絶えない。いかに根強い風習か、わかろうというものである。

現在地球上では、1億人ないし1億4千万人の女性が割礼を受けているといい、毎年300万人の女子が性器を切除され続けているという。先進国の当局者は、女性器切除はそれ自体が危険であるばかりでなく、生涯にわたって様々な後遺症をもたらすと警告している。

イギリスでは今、夏休みを前にして反割礼キャンペーンが盛んだ。夏休みは、女性器切除が最も活発に行われる時期だからだ。ロンドン警視庁は、情報の提供者に賞金を支払うともいっている。

フランスも同様の取り組みを行っているそうだ。ソマリア生まれのフランスのスーパーモデル、ワリス・ディリーは自身が受けた割礼の悲惨さを訴え、親たちにやめるようにと説得している。これに対してサルコジ大統領はレジョン・ド・ヌール勲章を贈って、彼女の行為を称えた。

〔参考〕 Female circumcision, a problem in Britain By D'Arcy Doran : AP


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