シーラカンス:生きている化石

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生きている化石として知られているシーラカンスが、今年の5月にインドネシアのスラウェシ島で釣り上げられた。インドネシアでシーラカンスが発見されたのは、1998年以降実に9年ぶりのことである。

釣ったのは地元の猟師ユスティノス・ラハマという人である。マナドという所の沖合200メートルほどの海上であったという。いつものように息子とともにカヌーに乗って漁に繰り出し、3つの釣り針を付けた110メートルほどの糸を海中に垂らしたところ強い引きを感じたので、夢中になって引き上げたら見慣れぬ大きな魚が上がってきた。

その魚は体長が1.3メートルもあり、体重は50キロほど。ラハマが驚いたことには、燐のように光る目を持ち、しかも足が付いている。もし夜中だったら、気味が悪くなってすぐ捨て去ったことだろう。だがラハマは売れるかもしれないと思って港に持ち帰ってきた。

猟師仲間の長老は、シーラカンスを見ると、足の付いている魚は不吉だから捨てるべきだといったが、ラハマはそのまま手元に置くことにし、レストランの水槽で預かってもらった。しかし17時間後に死んだ。ラハマはそれでもあきらめず冷凍保存して売れる機会をまった。

そうこうしているうちに噂が広まり、方々の国々から研究者が集まって来たのである。久しぶりに発見されたインドネシアのシーラカンスの実物を前に、研究者たちが色めき立ったのはいうまでもない。

シーラカンスは3億6千年前に遡る歴史を持つ。肺魚と同じく、鰓とともに肺を持ち、魚類と地上生物の両方の性質を兼ね備えている。太古の時代にあっては、淡水にも生息し、地上で生活したこともあったのではないかと思われる。鰭が変化して脚のようになっていることからも、そのことが推測される。

長らく、恐竜の絶滅と運命をともにしたのではないかと考えられてきたが、1938年、アフリカ南東部のインド洋において発見され、生きた化石として一躍脚光を浴びた。その形状が化石とほとんど異なっていなかったからである。このシーラカンスは、発見者であるマージョリー・ラティマー Marjorie Latimer 女史の名にちなんで、Latimeria と命名された。

ラティマー女史は第二の生きたシーラカンスを追い求めたが、アフリカ南東部では成果が上がらず、14年後になって3000キロ離れたコモロ諸島で二匹目が発見された。それ以来この海域では200匹ほどが発見されている。

このことから、生きているシーラカンスはコモロ諸島周辺の、しかも深海に生息していることがわかってきた。太古に生きていた数種類のシーラカンスのうち、深海に生息するものだけが生き残ったのだろう。しかし脚を持つなど、太古のシーラカンスの特徴をとどめており、3億年の間ほとんど進化がなかったものと推測されている。

スラウェシ島のシーラカンスは、コモロ諸島のものとは、4-5000年まえに分岐したものと思われている。コモロ諸島に比べると比較的浅い海域に生息しているのかもしれない。

魚類から地上動物への進化は、われわれ人間にもつながる悠久のドラマだ。なにしろ、原始の海に生息していた生物から脊椎動物としての魚が生まれ、それが淡水を遡って暮らすうちに陸へと上がり、陸上に暮らす脊椎動物になっていくのであり、その進化の先端に哺乳動物と人間が位置しているのである。

シーラカンスは、このような進化のドラマの生きた証人ともいえる。

ラハマが釣り上げたシーラカンスは、剥製に加工されてマナドの博物館に展示されるそうである。ラハマは自分のシーラカンスを食用に売ることはできなかったが、別の形で利益を得ることができたわけである。

もっとも、この魚は味がせず、紙を食うような味気なさだともいうから、生きた化石でなかったら、好んで相手にする人はいなかっただろう。

(参考)Scientists excited by Indonesian-caught coelacanth By Ronan Bourhis AFP


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