ヴェルレーヌは友人シヴリーを通じてマチルド・モーテを紹介されるとたちまち恋に陥り、しつこく求愛するようになる。マチルドの両親はヴェルレーヌを警戒したようであったが、ヴェルレーヌはマチルド本人を陥落させようとして、愛の詩を作っては、せっせと送り届けた。その甲斐もあってか、ヴェルレーヌはマチルドと婚約することができたのである。
詩集「よき歌」 La Bonne Chanson は、そんなヴェルレーヌがマチルドに捧げたラブソング集である。
二人の結婚生活は、ランボーの出現によって、めちゃくちゃなものとなったが、この詩集はマチルドの存在があってはじめて生まれたといえる。
「真白き月」はよき歌に収められた詩の雰囲気を代表するもの。女への愛を切々に歌っているようには伝わってこない。
―真白き月(拙訳)
真白き月
森を照らしぬ
木々の枝より
声は漏るる
ざわめく葉の隙間より
愛する人よ
池の面に月は映ゆる
鏡の底にあるが如く
柳の影は
水に濡れて
涙するが如くなりき
いざ夢みん 時は満ちぬ
心鎮める
やさしき芳香
蒼天の星より
漏れ下り来ぬ
紫の光を帯びて
至福の時なりき
La lune blanche Paul Verlaine
La lune blanche
Luit dans les bois ;
De chaque branche
Part une voix
Sous la ramée...
Ô bien-aimée.
L’étang reflète,
Profond miroir,
La silhouette
Du saule noir
Où le vent pleure...
Rêvons, c’est l’heure
Un vaste et tendre
Apaisement
Semble descendre
Du firmament
Que l’astre irise...
C’est l’heure exquise.
関連リンク: 詩人の魂>ポール・ヴェルレーヌ:生涯と作品
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