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楽府歌辞:戦城南


楽府は、古体詩、近体詩と並んで中国の韻文の三大様式の一をなすものである。曲をつけて歌うものであることから、樂曲ともいうべきものであり、その詩文を歌辞といった。題名には、歌、行、引、曲、吟などの文字を冠したものが多い。

楽府の名称は、前漢の恵帝時代に作られた楽府令、武帝時代の楽府署に由来する。いづれも音楽をつかさどる役所で、趙國、秦國、楚國など各地の歌謡を集めた。その点では詩経国風のひそみに倣った側面もある。武帝の時代には民謡を収集するほか、司馬相如、李延年などが当世風の歌曲を作って、新風をふきこんだこともあった。

楽府は唐宋の時代になって多いに栄えた。とりわけ宋代には、蘇軾の東坡樂府、張可久の小山樂府などが人口に膾炙したといわれる。これに対して漢以前のものを古楽府と呼んで区別している。残されている歌は膨大な数に達するが、その曲譜についてはほとんど失われてわかっていない。

古楽府は民謡であるから、人民の生活を詠んだもの、歌ったものが多い。生活を歌い、戦争を呪い、男女の恋情を述べたものなど数多くあるうちにも、無名の庶民によるものに佳作が多い。

ここでは、戦場に倒れた兵士の嘆きを歌った歌「戦城南」を取り上げよう。


戦城南

  戰城南         城南に 戰ひ  
  死郭北         郭北に 死す   
  野死不葬烏可食   野に死して葬られずんば 烏食ふべし
  為我謂烏       我が為に烏に謂へ 
  且為客豪       且く客のために豪せよ
  野死諒不葬      野に死して諒に葬むられず
  腐肉安能去子逃   腐肉安んぞ能く子を去てて逃れんと

城南に戦って、郭北に死す、野に倒れて死ねば烏が我が肉を食うだろう、我がためにカラスにいってくれ、しばらく食うのをガマンせよと、(豪:豪気、任侠の意)

野垂れ死にして葬られることもないこの身、お前たちを逃れることなどできないのだからと
 
  水声激激       水声 激激たり
  蒲葦冥冥       蒲葦 冥冥たり
  梟騎戰鬥死     梟騎 戰鬥して死し 
  駑馬徘徊鳴     駑馬 徘徊して鳴く
  梁築室        梁は室を築くに
  何以南         何を以て南し
  何以北         何を以て北する
  禾黍不獲君何食  禾黍獲らずば君何をか食はん
  願為忠臣安可得  忠臣たらんことを願ふとも安んぞ得べけん

水声が激しく響く、蒲や葦が生い茂る、騎士が倒れて死せば、馬は主を失っていななく、

この男は腕のよい大工、立派な家を築く能があるのに、どうして南に北に戦い続けねばならぬのか、

実りはあっても収穫をするものがいなければ、君主といえども食を得ることはできぬ、忠臣として働き続けようとしても、収穫ができぬようでは長続きするものではない

  思子良臣      子の良臣たらんことを思ふ
  良臣誠可思    良臣誠に思ふべし 
  朝行出攻      朝に行き出でて攻め
  暮不夜歸      暮に夜歸らず

泰平の世にあって良臣してつとめたいものだ、それこそ望ましいことではあるが、いまはこうして、朝に戦闘に奮い立ち、夕べには帰らぬ人となる


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