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何故かは知らねど(ヴェルレーヌ:叡智)


ヴェルレーヌの詩集「叡智」は、ランボーとの別れの苦さを歌ったものと、宗教的な改心を告白したものとからなっている。前者の多くは獄中で書かれた。

「何故かは知らねど」と題する作品は、前者に属すると思われるもので、やはり獄中で書かれたものである。

この詩の中でヴェルレーヌは、自らの魂を鴎にたとえ、その鴎が苦い思い出のかけらを羽で抱えて嘆くさまを歌っている。


何故かは知らねど

  なぜかは知らねど
  我が辛き心は
  狂おしき羽となって海へと飛びゆく
  かつて愛せることどもを
  我が心は鴎の羽となって
  波の穂先に抱き続ける 何故なりや 何故なりや

  飛び回る憂愁の鴎よ
  波を追う姿はわが思いに似たり
  風に吹かれつ あちこちに揺れまどい
  潮のうねりに従いて傾く
  飛び回る憂愁の鴎よ

  太陽に酔い
  自由に酔い
  鴎は本能に導かれ海原を漂い飛ぶ
  夏の微風が
  血の色をした波に乗せて
  鴎を暖かきまどろみへとやさしく誘う

  鴎は時に悲しく叫ぶ
  叫びは遠くの船乗りを驚かす
  気まぐれな風が鴎を翻弄し
  鴎は沈みつつ しおれた羽を持ち上げる
  そして鴎は悲しく叫ぶ

  なぜかは知らねど
  我が辛き心は
  狂おしき羽となって海へと飛びゆく
  かつて愛せることどもを
  我が心は鴎の羽となって
  波の穂先に抱く 何故なりや 何故なりや


Je ne sais pourquoi: Paul Verlaine

  Je ne sais pourquoi
  Mon esprit amer
  D’une aile inquiète et folle vole sur la mer.
  Tout ce qui m’est cher,
  D’une aile d’effroi
  Mon amour le couve au ras des flots. Pourquoi, pourquoi ?
 
  Mouette à l’essor mélancolique,
  Elle suit la vague, ma pensée,
  À tous les vents du ciel balancée,
  Et biaisant quand la marée oblique,
  Mouette à l’essor mélancolique.

  Ivre de soleil
  Et de liberté,
  Un instinct la guide à travers cette immensité.
  La brise d’été
  Sur le flot vermeil
  Doucement la porte en un tiède demi-sommeil.

  Parfois si tristement elle crie
  Qu’elle alarme au loin le pilote,
  Puis au gré du vent se livre et flotte
  Et plonge, et l’aile toute meurtrie
  Revole, et puis si tristement crie !

  Je ne sais pourquoi
  Mon esprit amer
  D’une aile inquiète et folle vole sur la mer.
  Tout ce qui m’est cher,
  D’une aile d’effroi
  Mon amour le couve au ras des flots. Pourquoi, pourquoi ?


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