詩の作法 Art poétique (ヴェルレーヌ:昔と近頃)

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晩年のヴェルレーヌは酒びたりのただれた生活を送った。梅毒のために健康がさいなまれもし、病院を出たり入ったりもした。だが、詩人としての名声はようやく高まり、彼のもとには若い詩人たちが集まるようにもなった。

「詩の作法」 Art poétique は詩集「昔と近頃」 Jadis et naguère に収められているものだが、おそらく若い詩人たちのために作詩の心得をしたためたものと思われる。

ヴェルレーヌの詩に対する考えがよく現れた作品で、彼の詩を解釈する際の鍵として、よく引用される。


詩の作法

  何にもまして音楽を
  そのためには形なきものを重んぜよ
  曖昧模糊として空中に溶け込み
  重さを感じさせぬが肝要

  また次のことも心せよ
  いささかの油断なく言葉をえらべ
  灰色の言葉にまして優れたものはない
  意味の揺らめきが確かさと結び合う

  それはヴェールに隠れた美しい瞳
  それは真昼に震える太陽の光
  それは穏やかな秋空の彼方に
  青く散らばった星々のきらめき

  求めるべきは言葉のニュアンス
  色ではなくニュアンスを求めよ
  ニュアンスこそは夢を結んで夢となし
  フルートの音をホルンに高める

  切り裂くような言い方はつつしめ
  残酷なエスプリも不純な笑いも
  それらは青き瞳にも涙させる
  安物料理のにんにくのようだ

  饒舌を以て語るなかれ
  エネルギッシュに語ったところで
  韻の余韻が沈黙するのみ
  うっかりするとめちゃくちゃになる

  韻を踏むとはむつかしいもの
  おしの子供やおろかな者も
  形ばかりはつくろえようが
  えてして虚ろに響くものだ

  音楽こそが肝要だ
  音楽は言葉に羽を生えさせ
  歌う者の魂よりさまよい出て
  自由に世界を飛び回らせる

  音楽に乗って冒険せよ
  朝風に乗って舞い飛べ
  風はミントやタイムの香りを運び
  吹き去った後に言辞をとどめる


Art poétique

  De la musique avant toute chose,
  Et pour cela préfère l'Impair
  Plus vague et plus soluble dans l'air,
  Sans rien en lui qui pèse ou qui pose.

  Il faut aussi que tu n'ailles point
  Choisir tes mots sans quelque méprise :
  Rien de plus cher que la chanson grise
  Où l'Indécis au Précis se joint.

  C'est des beaux yeux derrière des voiles,
  C'est le grand jour tremblant de midi,
  C'est, par un ciel d'automne attiédi,
  Le bleu fouillis des claires étoiles !

  Car nous voulons la Nuance encor,
  Pas la Couleur, rien que la nuance !
  Oh ! la nuance seule fiance
  Le rêve au rêve et la flûte au cor !

  Fuis du plus loin la Pointe assassine,
  L'Esprit cruel et le Rire impur,
  Qui font pleurer les yeux de l'Azur,
  Et tout cet ail de basse cuisine !

  Prends l'éloquence et tords-lui son cou !
  Tu feras bien, en train d'énergie,
  De rendre un peu la Rime assagie.
  Si l'on n'y veille, elle ira jusqu'où ?

  O qui dira les torts de la Rime ?
  Quel enfant sourd ou quel nègre fou
  Nous a forgé ce bijou d'un sou
  Qui sonne creux et faux sous la lime ?

  De la musique encore et toujours !
  Que ton vers soit la chose envolée
  Qu'on sent qui fuit d'une âme en allée
  Vers d'autres cieux à d'autres amours.

  Que ton vers soit la bonne aventure
  Eparse au vent crispé du matin
  Qui va fleurant la menthe et le thym...
  Et tout le reste est littérature.


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