クレムリンのうちゲバ

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最近行われたロシアの下院選挙では、プーチンを比例候補の筆頭に据えた与党「統一ロシア」が圧勝した。改憲に必要な3分の2を上回る議席を得たことから、プーチンはこれを土台に憲法を改正し、自ら終身大統領になる道を開くのではないかとの憶測も流れている。

プーチン自身はこの憶測を否定しているようだ。そのとおりだとすれば、任期の切れる来年の3月には、ロシアの新しい指導者が決まるということになる。だが今のところプーチンにかわる指導者は見えてこない。

プーチン自身は、たとえロシアの大統領職を降りても、政界への影響力を放棄する気持ちはなく、かといって新しい大統領が自分の傀儡たるにはとどまらぬだろうとわかっている。だから、自分の任期切れ後のことには神経を使っているようだ。

このように最近のロシアは、権力の流動化についての予感が高まっているが、それにつれてクレムリン内部の権力争いが激化する様相を見せ始めた。

ニューズウィークの記事によれば、数週間前、FSB(連邦公安局)とFSKN(連邦医薬品局)との間で、あわや武力衝突に発展しかねない事件が起こった。FSBがFSKNの幹部ブルボフを逮捕しようとして、その住居を急襲したのに対して、FSKN側が反撃したのだった。

ブルボフは不在であったので衝突は回避され、ブルボフ自身は別のところでFSBに拘束された。逮捕理由についてFSBは職権乱用を挙げているが、FSKN側はでっち上げだと反論している。FSB幹部による薬品の不正輸入をブルゴフが摘発したことにたいする不当な仕返しだと主張しているようだ。

ブルボフの事件のすぐ後には、やはりFSKNの幹部だったロマコとドルゼンコが放射性の毒を盛られて殺されたが、これもFSBの仕業だろうと憶測されている。

FSBとFSKNはロシアの治安を担当する二大権力機関であり、クレムリン内部での影響力は絶大とされる。それが互いに抗争しあうのであるから、外国人の目にはいったいどうなっているのかと不思議に映る。

ロシアの実情は、国家の機関といえども政治的に中立なわけではなく、権力争いの道具として露骨な役割を果たしているようなのだ。

エリツィンによるソ連解体の結果、ロシア社会にはおびただしい数の新興勢力が登場して、国有企業の私有化などの過程で巨大な利権を追及してきた。彼らは徒党を組み、自分らの利益を貫くためならなんでもやった。ライバルを蹴落とすために、国家権力まで利用してきたのである。

そうした構図は今日でも残っている。クレムリンの内外にはいくつもの徒党集団があって、それらが互いに牽制しあっている。ただ、プーチンという巨大な重石が彼らの上に負いかぶさっている間は、彼らといえども勝手放題なことはできなかった。

しかし最近のクレムリン内でのうちゲバ現象とも言うべきものを見ると、それぞれの徒党集団がプーチン以後をにらんで動き出したのではないか、そうした観測を抱かせる。

ロシアはまだまだ、開かれた民主主義とはとてもいえない社会のように見える。

(参考) ・War Inside the Kremlin By Owen Matthews and Anna Nemtsova | NEWSWEEK


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